第76話_壁の穴を通り抜けて
倉庫の周辺に、兵士たちはいなかった。
おそらく、兵士たちは、「ニセモノの樫谷大尉」の捜索に気を取られているんだろう。
まさか、俺たちが舞い戻って、人々を解放するとは夢にも思っていない。
そんなところか。
倉庫の出入り口を調べる。
倉庫には正面の出入り口と、裏口があるようだった。
裏口は外から、かんぬきがおろされているだけだ!
「葵。このかんぬきを上げれば、みんなを解放できる」
葵はコクリとうなずいた。
「光一、ここを開けたら、女の人たちの倉庫も解放したい」
葵はそういうと俺の腕を引っ張った。
「あっ......!達治......」
葵が目を見開いた。
達治が、こちらに向かって小走りにやってきたのだ。
「姉ちゃん。ごめん、来ちゃったよ」
「あんなに言って聞かせたのに。まったく」
葵は達治を抱きしめると、頭を撫でている。
えっ......。
俺のことも抱きしめて欲しい......。
俺は思わず子どもに嫉妬してしまった。
ギィイイイ~と音を立てて倉庫の扉を開ける。
暗闇の中で、何人かが、顔をあげるのが見えた。
「君たちは?」男の一人が俺に聞いた。
「助けに来たんです。逃げましょう?」
「春樹おじちゃん!」
達治は叫ぶと、一人の中年男性に抱きついた。
「達治、無事だったんだね。よかった」
男は達治を抱きしめると、涙を流した。
「ねぇ、逃げよう」
達治がそう言うと、何人かの男が腰を上げた。
だが、動かないものもいる。
「死にたいって思ってる人もいるんだね」
俺がつぶやくと、葵はうなずいた。
「ここはひどい世界だから......だけどあきらめちゃいけないんだ」
男の何人かは、俺が開けた東側の壁の穴から逃げ出していった。
だが半数以上は倉庫に残るようだった。
外に出ても生きる希望がない。
彼らの目はそう語っていた。
「女性の倉庫も開けよう」
葵はそう言うと走り出した。
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女性の倉庫まで、兵士に見つからないように植え込みに隠れながら移動した。
達治と春樹さんも一緒について来ていた。
女性の閉じ込められている倉庫を開ける。
女性たちに声をかけた。
「ドアを開けます。逃げましょう」
半数くらいの女性たちがゆっくりと腰を上げた。
怖いくらい順調だった。
女性たちを引き連れ、壁の穴に向かう。
壁の穴まであと少しだった。
ここを出たら、葵をポータルに連れて行こう。
気持ちが焦る。
そのときだった。
「お前たち!何をしてる」
兵士の声だった。
見つかってしまったのだ。
兵士は長い刀を振り回し始めた。
俺たちは壁の穴を背にして、4人の兵士に囲まれていた。
「逃げよう!」
背後にはすぐ、出口の穴だ。
俺は葵たちを先に壁の穴に通そうと考えた。
しかし、壁の穴は渋滞していた。
壁の穴は、ギリギリ一人ずつしか通れないから、人々が通るのに時間がかかってしまっていた。
「くそっ。早くしてくれ」
俺は正面の兵士の動きに注意しながら、背後の壁の穴をチラッとみる。
まだまだ、人で渋滞していた。
「だめだ。戦うしかない」
葵が兵士に向かって、戦う構えを見せた。
葵は勇敢に、刀を持つ兵士の懐に入り込んだ。
脇腹にパンチを食らわす。
「クッ」
兵士がうめいた。
俺もぼんやり見てはいられない。
一人の兵士に向かってタックルした。
すると、逃げ出そうとしていた一人の中年女性が兵士に向かって、レンガを投げた。
「人の弱みにつけこみやがって!」
そう言うと、地面から俺が崩したレンガを次々と投げる。
ほかの女性たちもそれに習うように、レンガを兵士に投げつけ始めた。
「一年分の食糧をやるから、いけにえを出せって?
汚いやり方だ!」
「わっ!お前ら、やめろ」
兵士は投げられるレンガを避けるのに精一杯になる。
「姉ちゃん!後ろっ」
そのとき達治が叫んだ。
「!?」
女性たちに気を取られていた俺は、驚いて葵のほうを見る。
葵の後ろに刀を持った兵士が、近づいてきていたのだ。
達治はダッシュすると、その兵士の足に両手で抱きついた。
兵士はバランスを崩してよろける。
バランスを崩した兵士は、よろけながらも足にしがみついた達治を蹴飛ばした。
達治は蹴飛ばされて、数メートル飛ばされる。
兵士は飛ばされた達治を素早く追いかけると、剣で突き刺そうとした。
「達治!あぶない!」
葵は叫ぶと、兵士と達治のもとへと走った。
そして達治をかばうようにして、兵士の剣を背中に受けてしまったのだ。
「......っ......!」
葵の背中から血が流れ出る。
「そんなっ!!葵」
俺は叫んだ。




