第75話_壁に穴を開ける
葵と一緒に、工場のような施設に戻ることになった。
葵と行動をともにしてる達治って子。
あの子が「施設に戻って他の人も助けたい」って言いだしたから。
正直、俺としては、さっさとポータルを抜けて元の世界に戻りたかったんだけどな。
この世界は食べ物が不足してるし、太陽の光が弱くて寒い。
薄暗くて気が滅入る。
一刻も早く抜け出したかった。
でもしかたない。
あの達治って子は、葵にとって大事な子なんだろう。
達治の願いは聞いてやらないと。
葵はそんなふうに思ってるみたいだった。
俺は葵の願いは聞いてやらないと、って思うしなぁ。
「葵。会いたかった」
葵の手をぎゅっとにぎる。
彼女は俺のほうに顔を向けると
「まさか見つけてくれるなんて思わなかった」
と言った。
「葵が消えたあと、俺はほんとにヤバかったんだよ。
もうつらくて、つらくて。あぁ、なんか、うまく言えない。とにかくヤバかった」
葵の横顔をじっとみる。
葵は、だいぶ痩せてしまっている。
この世界に食べ物がないせいだろう。
はやく元の世界に連れ帰りたかった。
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「まずい。ホンモノの光一がいる」
葵と俺は草むらに隠れて施設の様子を遠巻きに眺めた。
施設の入り口には、軍服を着た「この世界の俺」が立っていた。
キョロキョロとあたりを見回し、部下になにか指示を出している。
たぶん「ニセモノの俺を探せ!」とか、言ってるんだろう。
「葵。あの軍服ヤロウは、どんなやつだった?もう会ったんだよね?」
「......今はその話をしてるヒマはないよ。どうにかして倉庫の人たちを助けないと」
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俺たちは、施設の正面入口から入るのをあきらめた。
施設の東側に入る。
「ちょうどこの壁の向こうが、みんなが閉じ込められている倉庫の出入り口だよ」
葵は壁を手でさすっている。
壁は高さ3メートルはあるだろう。
上に有刺鉄線が張り巡らされている。
まるで刑務所だ。
「レンガの壁だな。もしかして壊せるかも」
俺は壁に向かってキックを放った。
壁はびくともしない。
「む、無理だよ。いくら光一の馬鹿力だって......」
葵が俺を止めようとする。
「離れてて。危ないから」
俺は今度は壁に向かって体当りした。
レンガの壁から砂埃があがった。
つぎに素手でパンチをし、両手で壁を押してみた。
拳から血が出て、肩は傷んだが、かまわなかった。
「もうやめて。光一が怪我する」
「たいしたことない」
早く葵を連れ帰りたい!
一刻も早く。
そのためにはこの壁を壊さないと!!
葵の顔を見る。
やせ細って、目の下にはくまがある。
可哀想に。
早く連れ帰って、たくさん食べさせたい。
温かいベッドで寝かせてあげたい。
葵の事を考えていると、俺の中で不思議な力が湧いてくる。
ありえないような馬鹿力が、体の奥底から湧き上がってくるのを感じる。
俺は、後退りして、壁から5メートルほど離れた。
それから走って壁に体当りする。
何度も。
何度も。
心配していた衝撃音はさほど大きくなかった。
やがて、レンガにヒビが入り、ボロボロと崩れ始める。
「ここまで崩せば、あとは手でいけそうだ」
俺はヒビの入ったレンガを正拳突きでパンチした。
ボコッという音とともに、レンガの一つが壁の向こう側に落ちた。
穴が空いた。
そこからは順調だった。
ボロボロと壁に穴が空き、人が通れる程度の穴が出来上がった。
「よし!行こう」
葵の手を握って、俺たちは再び施設の敷地に入り込んだ。




