第74話_【葵】達治のきもち
達治は苦しそうな顔をして、とうとう立ち止まってしまった。
手を引っ張ってもそれ以上、歩こうとしない。
「達治、どうしたの」
立ち止まって、達治の様子を確認した。
「姉ちゃん……」
達治は下唇を噛み締めて苦しそうにしている。
「そうか!光一がさっきの人にソックリだから、怖いんだね?」
あたしがそう言うと、達治はチラッと光一を見た。
「この人はさっきの人とは、違う人なんだ。
姉ちゃんの友だちなんだ。味方なんだよ」
あたしがそう言うと、達治はあたしにうなずいた。
「さっきの人とはおんなじ顔だけど、ぜんぜん雰囲気が違うよね。
別のひとだって、俺には分かるよ」
達治は光一をじっと見ながらそう言った。
「それなら、どうしたの。お腹でも痛いの?」
達治は静かに首を横に振ると話し始めた。
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達治はあたしの後を追って、老婆の家を抜け出した。
あたしが乗った馬車の2台後ろの馬車に乗ったと言う。
馬車の中は知らない人ばかり。
何時間も何時間も、馬車は走り続けて一向に止まらない。
やがて達治は不安になって泣き出した。
シクシクと泣く達治に、一緒に馬車に乗り合わせた中年男性が手を差し伸べた。
その男は、一晩中、達治に寄り添って声をかけ続けてくれたそうだ。
「晴樹おじちゃんて言うんだけど。
おじちゃんは、俺くらいの子どもを病気で亡くしたばかりだって言ってた。
それで悲しくなって、人類のために栄養になることに決めたって言ってた。
……でも」
「でも?」
「でもやっぱり死にたくない。
後悔してるって。倉庫に閉じ込められてから、そう言ってたんだ」
「達治……。その晴樹さんを助けに戻りたいんだね」
達治は下を向いていた。
しばらく黙っていたけど、やがて決意したように、あたしの目をじっと見つめると言った。
「うん。自分だけ逃げるなんてできない!
俺、おじちゃんを助けたい。
それに他の人たちも。死にたくないって言って泣いてる人がいっぱいいたんだ」
驚いた。
怖がりの達治がこんなことを言うなんて。
この数日で達治は、大きく成長していた。
「だけど、間に合うかな。
達治は睡眠薬を打たれてあと一歩で粉砕機に入れられるところだったんだ。
他の人達は......もしかしたら、もう......」
「ううん。俺はあんまりにも泣くから眠らされただけだよ?
俺の泣き声がみんなを不安にさせるって言われた。
他のみんなは、明日の朝、処置されるって......そう言ってた」
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「葵。戻るって本気?あそこはヤバいんだろ?」
「だいじょうぶだよ。
あたしが、倉庫の鍵を開けて皆を解放してくる。
光一は達治を見ていてあげて」
「俺も行く。って言うか、俺が行くよ」
光一はあたしの両肩をガッシリと掴むと、そう言った。
「やっとの思いで、葵を見つけ出したのに。
また危険な目になんか合わせらんないよ」
「でも......。うーん......。わかった!光一とあたし、二人でいこう」
あたしたちは、森の小道から外れた草むらに、達治を待たせることにした。
「達治。2時間くらいしても、姉ちゃんと光一が戻って来なければ、ここから逃げ出すんだよ」
「俺も行きたいよ」
達治はそう言った。
「だめだよ。達治は足手まといなる!
晴樹さんをほんとうに助けたいと思うのなら、ここで待つんだよ」
「わ……わかったよ」
達治はこくんと頷いた。




