第71話_【葵】残酷な世界
達治が部屋に運ばれてきた。
ストレッチャーに乗せられて、仰向けに寝かされている。
穏やかな顔をしていた。
運んできた男たちは一礼すると、部屋から出て行った。
「いやだ!!そんな!!......嘘だ。達治」
あたしは、達治に飛びついた。
嘘だと言って。
あたしがさっさと、助け出さなかったから。
あたしがもっと注意していれば。
達治の頬にそっとふれる。
「あったかい!!」
驚いた。
達治はまだ生きてる!?
「危なかったよ。あと一歩で粉砕機にかけられるところだったらしい」
光一がポツリとつぶやいた。
「達治は......達治は大丈夫なの」
「大丈夫だ。睡眠薬で眠っているだけだから」
「よ......よかった」
脚の力が抜ける。
涙があふれ出た。
「葵......」
いつの間に、光一があたしの真後ろに立っていた。
「つかまえた!」
そう言うと、あたしを後ろから抱きしめる。
「あっ......!やめて。離せ」
あたしは慌てて光一から逃れようとしたが、もう遅かった。
「男の子を助ければ、言うことを聞くって......そう言ったよね」
光一はそう言いながら、あたしの首筋にキスをした。
「......っ。い、言ったけど。やっ......」
「怖がらなくていい。大丈夫だから」
「怖がってるわけじゃない!あんたが気持ち悪いだけだ」
「ひどいこと言う」
光一はそう言いながら、後ろから器用にあたしのシャツのボタンをはずし始めた。
何を言っても引き下がってくれそうにない。
そのまま、ソファのほうまで連れていかれ、押し倒される。
抵抗しても、ものすごい力で押さえつけてくるのだ。
「桜沢葵......。俺がお前を守ってやる。
お前を粉砕機にかけたりしない」
光一はそう言いながら、あたしの鎖骨のあたりにキスをした。
それから頬にも。
彼の熱い息がかかり、肌をおしつけられる。
「いやだ!やめて」
あたしは抵抗したけど、ダメだった。
光一にくちびるにキスをされてしまった。
下唇を吸われ、光一の舌が口の中に入ってくるのを感じた。
目をぎゅっとつぶる。
もとの世界の光一とだって、キスをしたこと、無かったのに。
思わず涙が出てくる。
光一は、あたしの涙を指ですくうようにふき取ると、その指を舐めた。
「そんなに泣くなよ。俺が守ってやるから」
「自分だけよければいいなんて思えない。
この世界は残酷すぎる。光一は何も感じないの?」
あたしは涙を浮かべたまま光一を睨みつけた。
「残酷?」
「人々を食糧にすること。
軍の幹部なんでしょう。
阻止することだってできるはずなのに」
「なぜ、阻止しなきゃならない。みんな自分から進んで処理場に来てくれるのに?
誰も強制なんかしてない」
「そうだけど!家族のために、しかたなく来てる人だっているはずだよ。
直前に怖くなって後悔する人だっている。
誰だって死にたくなんかない!」
あたしが叫ぶと、光一は、にやりと笑った。
「葵は難しいこと言うんだなぁ。
俺は深く考えるのが苦手なんだよ。
これで世界がうまく回ってるんだから、それでいいと思ってる」
「光一!!そんなの光一じゃない。
お願い、少しは自分の頭で考えて。
流されてばかりじゃ、だめなときだってあるんだよ」
あたしは必死に光一を説得した。
だけどダメだった。
「あっ......。んっ」
また激しいキスをされる。
手首を強くつかまれて胸を触られた。
ズボンもぬがされてしまう。
そのときだった。
達治が、ガラスの灰皿をもって、光一の背後に立っていることに気づいた。
光一はもちろん気づいていない。
達治は、光一の後頭部に灰皿を振り下ろそうとして......でも勇気が出なくて、迷っていた。
あたしは達治にむかって必死に首を横に振る。
達治は、逃がしてもらえる。
光一とそういう約束をしたんだ。
光一を殴ったりしたら、逃がしてもらえなくなるかもしれない。
達治、お願い。
そんなことしないで。
いつもの臆病な達治なら、そんなこと、できないはず。
あたしの願いは達治に届かなかった。
達治はぎゅっと目をつぶると、光一の後頭部に灰皿を振り下ろした。




