第68話_【葵】タンパク源
噴水から左へまがると、倉庫のような建物があった。
女たちの集団は、そこへ入れられた。
おそらく噴水から右へ曲がった場所にも同じような建物があって、男はそこに入れられているのだろう。
(達治......。一人でだいじょうぶかな。可哀想にきっと不安だろうな)
あたしは達治のことが心配でたまらなかった。
達治が着いてくるなんて思いもしなかった自分を呪った。
あの子は、わぁわぁ泣いて、ショックを受けてたんだ。
こういう行動に出ることだって予想しようと思えばできたのに。
もっと注意しておけばよかったんだと後悔した。
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倉庫の中に全員の女たちがはいると、出入り口の鍵がガチャリとかけられた。
逃げ出さないように、閉じ込められたのだ。
女たちは、めいめい床に座り込んだり寝転んだりした。
狭い馬車に乗せられ移動を続けてきたので、みんな憔悴しきっていた。
あたしも床に座り込んだ。
ふと、となりの中年女性が震えているのが目に入った。
「だいじょうぶですか?」
心配になって彼女に声をかけた。
「なに、ちょっと怖くなったんだ」
女性はあたしをちらっと見ると、そうつぶやいた。
「怖い?なにが......?」
「あんたは怖くないのかい?」
女性はまた、あたしのほうに視線を向ける。
「あんた、まだ若いじゃないか。
どうしてここに送り込まれたんだ?」
「中央政府の城で......働いてほしいって言われて.....」
あたしは老婆に言われたことを、そのまま女性に言った。
すると女性は
「うそだろ?」
と素っ頓狂な声を出した。
「働いて欲しい?......ハハッ。なんだよそれ?
まさかあんた、この場所について何も知らないのかい?」
「じつは、よく知らないんです」
あたしは情報を得ようと思って、正直にそう言った。
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女性の話によると、ここは中央政府の城......というわけではないらしい。
この辺一体を管轄している「地方施設」だそうだ。
「......地方施設......」
あたしは女性の言葉を繰り返した。
「そうさ。この国には各地にこんな施設があちこちにあるのさ。
あんた本当に何も知らないんだね」
「それで、ここは何をする施設なんですか」
女性の口から出た説明にあたしは凍りついた。
女性の説明はこうだった。
氷河期が訪れて以来、太陽の光は届きにくく気温は下がるいっぽう。
そのため植物が枯れはじめ、それを食べていた動物もどんどん絶滅していく。
すでに深刻な食糧難だった。
科学者が太陽に変わる「人工太陽」や「地熱」を利用した発電を開発している。
だが、それにはまだ時間がかかる。
それまでの時間稼ぎとして、人類が生き延びるために......。
「生き延びるために?」
「一部の人間が、犠牲になるしか無いのさ」
女性は震える声でそう言った。
「犠牲」
「そうだよ。ここに連れてこられた人間は、タンパク源として処理される」
「タンパク源!?」
「あぁ。残酷なことはされないと言う話だよ?
睡眠薬で眠らされて、解体され、隅々まで栄養源として再利用されるんだ」
「......っ......!そんな......まさか......」
人間が人間の栄養源になる......。
そんなこと、あっていいのだろうか。
老婆の家にいたとき......食べた栄養剤やタブレット。
あれは、「人間」からつくられたものだった......!?
あたしは思わず、スクッと立ち上がると、口に手を当てた。
衝撃のあまり、吐きそうになったのだ。
「飢えに苦しんで死ぬよりも、睡眠薬で楽に死にたいってヤツも多い。
人類の役に立ちたいって言うヤツもいるし。
あとは、この施設に行くことを決めると、その家族に1年分の食料が配られるんだ」
「1年分の食料が......?」
ということは、老婆には1年分の食料が手に入ったということなんだろうか。
あたしが助けてもらったお礼を老婆に言ったとき、
「なに......。異邦人は助けたほうが良いことがあるからな」
老婆はそう言っていた。
おそらく最初からあたしを、ここに送り込むつもりだったんだろう。
逃げなくちゃ。
達治を連れて、なんとかして逃げないと。
そう思ったときだった。
ガラガラと倉庫の扉が開いた。
中年の兵士が、やってきてウロウロとあたしたちの周りを歩き始めた。
ジロジロと一人ひとりの顔を眺める。
「おい、お前とお前、それにお前、俺について来い」
兵士は指をさすと、何人かの女にそう命じた。
その兵士はあたしの前で立ち止まると、あたしの腕を引っ張った。
「お前もだ。来い!」
(ま、まさか、もう食糧にされるの?)
背中に嫌な汗が流れた。




