第67話_光一に引き寄せられる運命
「般若!いますぐ、葵のいる世界のポータルを開いてくれ!」
すでに葵が消えてから、3ヶ月ほど経過してしまっている。
見知らぬ世界で葵はきっと心細い思いをしてるに違いない。
それどころか、彼女の身に危険がせまっている可能性さえある。
そう思うと、じっとしていられなかった。
「焦るな」
般若は、俺に「まて」と言うように手のひらを見せた。
「葵はおそらく、1223H-Aに存在する光一の近くに引き寄せられるはずだ」
「えっ!?俺の近くに?」
「そうだ。前に、俺があの世界の葵の調査に出かけたときに、
そうなるように、羅針盤に頼んだ」
「羅針盤に頼んだ......」
羅針盤って一体何なんだろう。
お願いごとをすることもできるのか。
なんか超、便利じゃん......。
「だが、葵はあの世界には存在しなかった。
だから結局、願いはムダに終わったのだが」
般若は、赤いチョコレートの包を開くとモグモグと食べ始めた。
俺も、つられて水色のチョコレートを食べた。
すごく美味しい。
「1223H-Aで、光一と葵の運命が交差するように......と俺が羅針盤に頼んだ。
その依頼は実行されないままだが、取り消しもしていない。
だからあの世界に葵が飛ばされたのなら、それが今、実行されているはずだ」
「それなら、俺は1223H-Aに行って、自分を探せば葵に会えるってことだな!?」
「そうだが。
別の世界線の自分とバッタリ出逢えば、また抹消のトリガーが発動する。
そのこと、分かってるのか?」
「身にしみて分かってる。般若みたいにお面をするか、うまく出会わないようにして葵を探し出すよ」
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【葵】1223H-A
馬車は、一晩中走り続けて、やがて中央政府の城に到着した。
荷馬車に乗せられていた人々は移動中も無言だった。
兵士も乗っていたので、余計なことを喋れなかったのかもしれない。
雰囲気から言って、「これからお城で働く」
そんな軽いノリじゃなかった。
まるで連行される捕虜......。
そんな雰囲気だった。
これから何が起きるんだろう。
不安になると、ついつい光一のことを思い出してしまう。
「葵。きっと大丈夫。ぜんぶうまくいく」
そう言って抱きしめて、頭を撫でてくれたっけ。
あたしは、光一の言葉をなんども頭の中で繰り返した。
「きっと大丈夫。ぜんぶうまくいく」
中央政府の城は、赤いレンガで出きた要塞のような建物だった。
あたしたち荷馬車の人間は、ぞろぞろと列になって中庭のような空間を歩かされた。
「男は右へ。女は左だ」
兵士の一人が中庭の中央、噴水の前で案内している。
あたしは逃げ出すときのためにも、キョロキョロとあたりを見回して敷地の様子を観察した。
建物は7階建てくらい。
出入り口には兵士が立っている。
後ろをチラッと振り返ってみる。
あたしはそのとき、ありえないものを見た。
「達治!?」
思わず声が出る。
自分の15人くらい後ろに達治がいたのだ。
小さい子どもはいないので、すごく目立っていた。
「た......達治、どうして!?」
あたしは兵士の目を盗んで、達治のそばまで移動した。
「姉ちゃん。怖いよ」
達治が小声であたしの手を握りしめた。
「バカだね。怖がりなのに、どうしてこんなこと」
達治はあたしのことが心配だったのか。
それとも城に連れて行かれて帰ってこない母親を思ってのことか。
馬車に忍び込んだんだろう。
やがて、噴水の前まで来てしまう。
「男は右!女は左だ!」
兵士が叫ぶ。
「この子はまだ子どもなんです。
間違って馬車に乗ってしまいました。返してあげて」
あたしは兵士に叫んだ。
「うるさい!男は右だ!」
兵士は達治の腕をつかむと右へと連れて行く。
「痛い!はなして。怖いよ」
達治が叫び声を上げた。
「達治。やめて、乱暴しないで」
あたしは必死に兵士においすがった。
「さわるな!これ以上、抵抗すればここで処刑する」
兵士はあたしにむけて、剣をふりあげた。
「やめて。姉ちゃん!」
達治が泣き叫ぶ。
「達治、きっと助けに行くから。我慢するんだよ」
あたしは地面にひれふして、兵士に無抵抗の意志を示した。
達治はふるえて、こちらを何度も振り返りながら、あたしから離れて行った。




