第65話_水色のチョコレート
「本来、2つあるべきではないデータがダブってしまったとき、エラーが起きる」
般若はそう言った。
般若はジャケットのポケットから色とりどりの包み紙に包まれたチョコレートの玉を取り出した。
赤い包み紙のチョコレートを2つ、テーブルの中央に置く。
「葵とニセ葵......。二人が出会ったとき、いわゆるエラーが起きる。
それが抹消のトリガーだ」
般若は赤いチョコレート2つをぶつけた。
「どちらか一方は、不要なものとして、別の世界線へ飛ばされることになる」
ひとつの赤いチョコレートが、般若の指につままれて、テーブルの上から取りのぞかれた。
もうひとつのチョコレートは、テーブルに残されたままだ。
「それで?そっちのチョコレートはどこへ行くんだよ?」
俺は身を乗り出した。
「赤いチョコレートの存在しない世界へと自動的に飛ばされる。
つまり、葵が死んでるか、何らかの理由で生まれなかった世界線へと飛ばされるんだ」
「それはどこだよ!?」
「ここで、一つ告白しなければならない」
般若はいきなり椅子から立ち上がった。
「は!?」
「俺は葵マニアなんだ。
各世界線の葵を調査し、可能な限り葵たちを幸せにするために動いてきた」
般若は拳をにぎりしめると、あつく語り始めた。
「な......なんだ.....それ」
般若が何を言い出すのかと、あっけにとられた。
「俺の世界線、1143H-Cの葵には、内緒だぞ。
ヘンタイだと思われたくないんだ。
俺は、世界線すべての葵を幸せにしたい......
お前なら、俺の気持ち、わかるよな?」
仮面の下で、頬を赤らめているんだろうか。
般若は、少しモジモジし始めた。
「いやー......。どうだろう。うーん。俺は俺の葵だけが、大切かなぁ」
.「俺だってそうだ!自分の世界線の葵が一番だ!
だけど、他の葵たちのことも、気になってしまうんだ......!」
「わ、わかったよ。早く続きを話せ」
「1145H-B、欲求不満のニセ葵は幸せにすることができなかった。
というのも、彼女は光一に出会えなかったからだ」
「俺に出会うと、葵は幸せになるのか?」
少し嬉しくなった。
「そうだ。そして光一自身も、葵と出会うことで幸福な人生が送れるんだ」
「なんで、そう言い切れるんだよ?」
「羅針盤が、そういう答えを出してるんだ」
また出てきた。
「羅針盤」
何のことやらわからないが、ここで説明を求めれば、話が長くなるに違いなかった。
「あぁ~、羅針盤がそう言うなら間違いないな」
俺は適当にあいづちした。
「それで........だ。
俺は葵マニアだから、どの世界線に葵が存在しないのかを知っている」
俺は椅子を蹴って立ち上がった。
「それはどこだよ!?」
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般若はまた、チョコレートをテーブルに並べ始めた。
「この緑色のチョコレートがこの世界線、1142H-A」
「うん」
緑のチョコレートを中心にして、両側に20個のチョコレートが並んでいる。
「世界線は無数にあるんだけど。
移動できる範囲は、最大で自分の故郷の世界線から両どなり20までなんだ」
「へえ」
「俺の世界はお前の世界の隣。
この黒いチョコレートが俺の世界線、1143H-Cだ」
般若は緑色のチョコレートの隣の、黒いチョコレートを指さした。
「俺は、黒いチョコレートから両隣20の世界線へ行き、すべての葵を調査した。
......ただし行ける範囲までだけど」
「それで?」
「ラッキーだな。俺の行った範囲内では、葵がいない世界線はたったひとつ。
1223H-Aのみだ。
ただし、行ける範囲外の世界線に飛ばされていたら、もう見つけられない」
「なにっ」
もう、見つけられない......
般若のその言葉が胸に重く響いた。
「抹消のトリガーで消滅した人間をわざわざ探したことは今まで無いんだ。
だから、いったいどこまで飛ばされるのか。
世界線は無限にある。
20の範囲外に飛ばされていたら、もう見つけるのは不可能だ」
「そんな。
でも1223?......そこにいるかもしれない。俺はそこに行く」
俺の世界、緑色のチョコレートから、12個となりの水色のチョコレート。
俺は水色のチョコレートをつかみ取った。




