第64話_般若の拠点
般若は拘束を解くと、俺の腕をぐいっと引っ張った。
「俺の拠点へ行こう。そこで詳しく話す」
「話なんかしなくていい。
いますぐ葵のいる世界へ連れてってくれ。ポータルが必要なら......」
俺がそう言うと般若は、ため息を付いた。
「......気持ちはわかるけど。焦ると失敗する」
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ホテルの外に出ると、般若の手下と思われる男が数人、待ち構えていた。
男たちは、般若を見ると「ご無事で」
と口々に言い、般若のために車の後部ドアを開けた。
「般若、お前は一体何者なんだよ?」
「俺はどの世界線へのポータルも開ける力があるんだ。
だから政府に大事にされてる」
「ふうん......?」
よくわからないが、別世界の「俺=般若」は俺よりもデキる男みたいだ。
ポータルに関する知識も豊富だし。
般若に連れて行かれた場所は、ちいさな古本屋だった。
狭い店内の壁という壁にぎっしりと本が並べられ、床にもたくさんの本が積まれている。
店の奥には丸メガネをかけたスキンヘッドの老人が、本を読んでいた。
大勢で狭い店内に入ってきたのに、俺たちを見もしない。
般若が近づくと、老人は本を見つめたまま口を開いた。
「一番、最悪な世界線は?」
「1111H-D......。核戦争で荒廃している。暗黒の分岐が起きたせいだ」
般若がそう答えると、老人は立ち上がって背後にある電気のスイッチを押した。
すると、スイッチの脇にある本棚がスルスルと左右に開いた。
「なにこれっ!かっこいい......」
俺たちは、本棚の裏側に隠されていた、エレベータに乗り込んだ。
エレベータ内部にはボタンがなく、人が乗り込むと自動で動き出した。
かなり深く下がっていく。
エレベータのなかで般若に話しかけた。
「別の世界線のやつらは、こういう古本屋とかラブホテルとか......おもわぬところに拠点を作ってるんだな?」
「そうだ。ボウリング場や弁当工場なんてのもある。
この世界1142H-Aは、食料や水、資源が豊富で平和だから拠点が作りやすいんだ」
「お前は俺のくせに頭がいいな。俺はその1142なんちゃら......って番号、無理だわ。
覚えらんない」
地下3階くらいだろうか。
そこで扉が開く。
地下空間はヘッドセットをつけた男や女が忙しそうに働くオフィスだった。
「1221H-Bでおかしな動きがある。ワームかもしれない」
「Aのほうで、ポータルが3つ開いた形跡あり!」
あちこちで、そんな声が飛び交っている。
壁にはモニターがたくさん並んでいる。
「俺の世界線のテクノロジーはここには持ち込めないから。
だから、こんなアナログな方法で平行世界の動向を探ってるんだ。
ここは唯一、羅針盤が正常に動く世界線だから、全体の運命をよむこともできるし」
「へぇ~......」
もう理解が追いつかないので、俺・お得意の「分かったふり」をするしかなかった。
般若は、俺を会議室のようなスペースに入れた。
椅子をすすめられたので座る。
「それで、葵は?葵はどこにいるんだよ」
「葵は、葵のいない世界に飛ばされたはずだ」
「はぁ??」




