第63話_いちばんの理解者
「般若。ほどいてくれ」
手足を縛っている縄をほどいて欲しくて、般若に頼んだ。
しかし般若は首を横に振る。
「なんでだよ!助けに来てくれたんだろ?」
「だって、ほどいたら、お前は俺のお面をはぎ取るだろ?」
......図星だった。
般若はもう一人の俺なんだから、俺の考えてることなんてお見通しってわけか?
般若は、ソファにドサッと座ると頭を抱えた。
「葵は......抹消のトリガーで消滅したのか......?」
「そうだよ!俺は葵に会いたい!会うためならなんでもする」
「まさかこんなことになってるなんて」
般若はお面の下から小さな機械を取り出した。
「ボイスチェンジャーを外した。もう俺の正体はバレてるからな」
光一。葵が消えたときのことを聞かせてほしい」
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俺は葵が消えてしまったときのことを般若に詳しく話した。
般若は口をはさまずに、じっと聞いてくれた。
「それは、ツラかったな。俺の世界にも葵がいるんだ。
彼女は大切なパートナーだ。もし彼女を失ったら俺は気が狂う」
般若の言葉を聞いて、俺はおもわず涙ぐんだ。
優香も豆治郎も、俺の気持ちをわかってくれない。
そう思って、孤独を感じていたんだけど。
般若は俺の分身だ。
俺の気持ちをやっぱり、よくわかってくれる!
「いいか。よく聞け、光一」
般若が口を開いた。
「俺のお面をとっても、お前は葵には会えない。まず無理だ」
「えっ......。そんな......」
「だが、安心しろ。葵を連れ帰ることはできる。
葵は消えて無くなったわけじゃないんだ。
別の世界線に飛ばされたんだ。
どうしてそうなったのかも、あとで詳しく離すけど」
「えっ!?別の世界線!?どこだ!!それは」
「いくつか、アテがある。お前の拘束をほどいてやる。
いいか......。俺のお面を外そうなんてバカなことするなよ。
お面を外せば、俺かお前のどちらかが、別の世界線に飛ばされてしまう。
飛ばされた先は、葵がいる世界だった!!な~んて偶然はまず起きない。
宝くじを当てるより難しいだろう」
俺は大きくうなずいた。
「葵は消えて無くなったわけじゃない」
その言葉が、何度も頭の中でぐるぐるとまわっていた。
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【葵】_1223H-A
「おばぁ!!緑の洞窟の前に女が倒れてたよ!素っ裸だった」
10歳くらいの男の子が、老婆のほうに駆け寄る。
「ほう?ひさびさに異邦人がきたかの」
おばぁ......と呼ばれた老婆は、曲がった腰を手で抑えながらゆっくりと立ち上がった。
「達治!おばぁと一緒に異邦人を運ぶよ。おまえが足を持てよ」
「えぇ?俺、怖いよ~」
達治は、首を横に振る。
「何言ってるが。外の気温は3℃じゃぞ。異邦人が死んじまう」
おばぁは、50年前のことを思い出していた。
この前、異邦人が緑の洞窟の前に全裸で倒れていたのは、まだアタシが20歳の頃だったんべかな。
久々だな。
とにかく。
緑の洞窟の前は、時空が曲がってるとか、異世界へ通じる扉が開く時があるとか。
そんな伝説があって、ときどき、アッチ側の人間が迷い込んでくるんだわ。
爺さんも曾祖父さんも、そんなこと言ってたわ。
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「う......ん。光一、こういち......」
自分の身体が透明になっていく。
どこかへ引っ張られるような、強烈な力を感じた。
そのあとは真っ暗闇。
あたしはいったいどうなったの?
死んでしまったの。
目を開けると、木の天井が見えた。
「ここは!?」
あたしは勢いよく体を起こした。
動物の毛皮のような毛布をはねのける。
「おや?目が覚めたかい?異邦人さん」
年老いた老婆が、あたしのそばにやってきた。
老婆に隠れるようにして幼い男の子があたしをじっと見ている。
あたしは、古びたシャツにズボンを穿かされている。
自分の服じゃなかった。
「ここは......どこなんです?」
「三崎村って呼ばれてる、へんぴな村さ。
あんたの住んでいた世界にも、そんな村が存在していたかどうか......分からないが」
老婆は、ベッドサイドの小さな台に湯気のたつお茶を置いた。
「三崎村......?」




