第56話_ジムの部屋で
「アチコチ歩き回ったし、もう体力の限界だ」
街をブラブラ歩いていると、葵がそんなことを言った。
俺は腕時計を見る。
「やっと22時過ぎた。深夜3時まであと5時間。
あと5時間が無事に過ぎれば俺たちの勝ちだ」
「そう......だな」
俺を見上げる葵の顔色が悪い。
怖いんだろう。
それに一睡もしないで、遊んだので疲れているのかもしれない。
実を言うと俺もフラフラだった。
「葵。どっか行きたいとこある?」
「遊園地も水族館も、映画も。
行ってみたいなぁって思ってたところは全部行けた。
すごく楽しかったよ。......光一、ありがとう」
まるで、もうお別れみたいな言いかたをされて、俺は焦った。
葵の手を引っ張った。
「それじゃ残りの時間は二人きりで過ごそう?」
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葵をジムに連れてきた。
「ここは、お前の住み家じゃないか」
葵がパーソナルトレーニングスタジオ・ヒルマのビルを見上げて言う。
「だって、もう歩き疲れたよね。ジムには椅子もあるし。
お湯だって飲み放題だよ。時間が過ぎるまで二人きりでゆっくりしてようよ」
葵の手を引っ張って、ジムへと上がるエレベーターに乗り込んだ。
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「前に来たときは、あたしは深手を負っていた。
だからよく覚えていないんだ。
光一の住み家には、こんなに筋トレのマシーンがあったんだな」
葵はラットプルダウンのバーをグイッとひっぱった。
「うわ。重い」
「どのマシーンも俺用の重量にセットされてるから重いよ」
「ここは、トラベラーが出入りするための隠れ蓑の施設なんだな。
一度、トラベラー案内人の蛭間透子......彼女に会ってみたい」
「蛭間さんは面白い人だよ。いつも、たい焼きとかタコ焼きをおごってくれる」
葵と二人で向かい合って白湯を飲んだ。
葵は言葉が少なくなって、やがてウトウトし始めた。
机につっぷして眠った。
疲れてるんだろう。
「葵......」
彼女のやわらかい髪の毛に触れる。
俺は葵をヒョイっと抱き上げた。
葵は、抱き上げられるとさすがに目を覚ました。
そして
「何をする!」
と叫んだ。
だけどジッとしてる。
眠くて抵抗する元気もないんだろう。
「風邪引くよ。俺のベッドで寝よう」
部屋のドアを開けて、彼女をベッドの上にそっとおろした。
葵はベッドに寝かされたまま、俺のことをじっと見ている。
少し不安そうにして、大きな目をこちらに向けていた。
「葵......。可愛すぎる」
俺は我慢ができなくて、葵に覆いかぶさった。
彼女の頬に何度もキスをした。
「こ、光一!あっ......。やめるんだ。離せ」
葵があばれるので、手首をおさえつける。
「離さない。もう限界だ。我慢できない」
「うっ」
葵の細い手首を握りしめたまま、俺は親指で彼女の頬に触れた。
指で唇にふれる。
「やめろ」
葵は顔を横に向けて、キスされないように抵抗した。
「葵。好きだ」
彼女の耳元で言う。
「光一......」
葵はギュッと目をつぶっていた。




