第55話_目が離せない
ファミレスなんかよりも二人きりになれる場所に行きたい。
葵をずっと抱きしめていたかった。
目をそらした瞬間に、葵がスッと消えてしまうんじゃないか。
そんなふうに思えて、彼女から目を離すことができなかった。
ほんとうは彼女をずっと抱きしめていたい。
葵が「そこにいる」ってことを、肌で感じていたかった。
ここ数日、優香の捜索で寝不足が続いていた。
頭がぼんやりする。
だけど、葵をしっかり見つめていなければ。
「見張っていれば消えないわけじゃない」
葵はそう言ってたけど。
でも目をそらしたら、きっと良くないことが起こる。
そんなふうに思えた。
神経が張り詰めるような緊張が、俺の中で続いていた。
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「自分のことが嫌いになりそうって、どういうこと?」
俺は白湯をのみながら、葵の答えを待った。
葵は、考え込みながらゆっくりと話した。
「自分のことが嫌いになる。
だって、あのニセ葵はあたしそのものだ......」
「えっ?ニセ葵は、葵とは違う。顔は同じだけど、ぜんぜん違うよ?」
「そんなことない。
あいつは同じDNAをもつ、あたしの分身だ。
あたしの心の奥底には、あのニセ葵のような残酷でサディスティックな感情がうずまいてるのかもしれない......そう思うと、自分が嫌になる」
葵がそんなことを気にしていたなんて。
意外だった。
でも自分と同じ顔をした、自分の分身の性格が悪かったら、確かにショックだよな。
「あいつ......ニセ葵は可哀想なヤツなのかもしれないよ?」
俺はテーブルの上におかれた葵の手をにぎりしめた。
葵の存在をしっかり確かめたくって、しょっちゅう手を握りたくなってしまう。
「可哀想なヤツ?」
葵が目を丸くして首を傾げている。
かわいい。
表情が、かわいすぎる。
「アイツは孤独だから。味方が誰もいないから。
それで性格がねじ曲がっちゃったんだよ!」
「う~ん......」
葵はまだ首を傾げている。
「俺に出会わなかったっていうのが大きいのかも!
俺みたいな、素敵な彼氏がニセ葵にはできなかったんだ」
俺がそう言うと葵は、しばらく黙り込んだ。
それから顔を赤くすると、
「フン。お前なんかに出会っても、出会わなくても一緒だ」
と言ってそっぽを向いた。
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葵が消えてしまわないかどうか。
ずっと気にしながらデートは続いた。
葵が行きたいと言うから、二人で遊園地へ行った。
それから、水族館や映画館にも行った。
彼女は、小さい頃から武道に打ち込んでいたし、優香を守らなければいけなかったから、遊園地なんかで遊んだことが無いって言ってた。
葵はたくさん笑っていた。
彼女の笑顔を見ると俺も幸せな気分になった。
葵が消える可能性のある24時間経過するまで、あと6時間。
二人で過ごす時間は幸せだったし、ずっとこのままが良い、そう思えたけど。
だけど、早く24時間という時間が過ぎ去って欲しい。
24時間がすぎさって、だいじょうぶだという安心を手に入れたい。
俺はしょっちゅう腕時計をにらんでいた。




