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どうでもいい関係でぐちゃぐちゃしてる  作者: ゴルゴンゾーラ
彼女との出会いと彼女が消えてしまうまで
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第53話_【葵】恋愛ごっこ

「葵......」


二人きりの深夜の道場。

光一があたしのことをじっと見ている。

不安そうにして、しかも泣いたのか、目が赤い。


あたしと光一を二人きりにして置いていくなんて。

山口先輩も松井も、どういうつもりなんだ。


光一はメソメソと泣き出しそうな顔をした。

「光一!そんな顔するな!」


あたしは光一に向かって叫んだ。

「まだ、あたしが消えるときまったわけじゃない」

「......だって......。俺、葵がいなくなったりしたら、耐えられない。無理だよ?」


「バカなこと言うな!だいじょうぶだ!」

あたしは、ヤツの背中を強く叩いた。

「痛っ。......いつもの葵だ。もっと叩いてくれると嬉しい......」


あたしは、光一の背中や腹を叩いた。

光一の身体は分厚い筋肉に守られいる。

あたしの腕力で叩いても、たいして痛みは感じないだろう。

でも光一はあたしに叩かれると嬉しそうな顔をした。


「もっと殴っていいよ」

「お前、変態だな。

ニセ葵のほうが、サディスティックだから、アイツに連れて行かれたほうが良かったんじゃないか」

あたしがそう言うと、

「そんなことない!あいつは嫌いだ。

顔は葵にそっくりだけど、中身がちがう。俺には分かるんだ」

光一は強い口調でキッパリそう言った。


「葵。消えないで欲しい」

光一は腹を殴ろうとする、あたしの手をキャッチしてギュッとにぎった。

「き、消えたりするものか。安心しろ。......その手を離せ」


本当は怖くてしかたなかった。

死にたくない。

消えるなんて、嫌だ。怖い。


だけど、光一の前でそんなこと言ったら。

そしたら、光一はきっともっと悲しむ。

今は精一杯、強がるしかない。

そう思った。


「24時間。......このまま24時間がすぎれば、葵の勝ちってことだよね?

ニセ葵が消えたってことだよね?」

「そうなるな」

「それなら、今から24時間。俺は葵を見張る」

「バカ。見張ったからって消えないってわけじゃないんだぞ?」

「いいんだ。とにかく一緒にいたい」

光一はあたしの手を離さない。


「優香が言ってた。葵も俺のこと......好きだって」

手を握りしめたまま、光一はあたしの目をじっと見つめた。


光一にまっすぐ見つめられると心臓がドキドキしはじめて、考えがまとまらなくなる。

顔が熱くなってあたしは下を向いた。


光一はドキドキしないんだろうか。


光一は、あたしのことが好きだ、大事だって、いつも言うけど。

平気な顔をして、真顔で言ってくるのは、どうしてなんだ。

好きなら、緊張するもんじゃないのか。


いつもあたしばかりがドキドキしている気がする!


「あっ......あれは、山口先輩の勘違いだ。

山口先輩は、長く監禁されて頭が混乱していたんだ」

あたしは思わず、恥ずかしくてそんな事を言ってしまった。


ほんとうは......。

ほんとうは、光一のことが好きでたまらないのに。


「えっ......。そうなのかなぁ......。なんだ......」

光一は口を尖らせて、すねたようにあたしを見つめる。

かわいい。

ついイジメたくなるような顔だった。


--------------------


あたしは、道着から普段着に着替えた。

あたしが着替えている間も、光一は不安なのか、

「葵!?いるよね!?」

と更衣室に向かってなんども叫んだ。


着替えたあと、二人で大学を出て夜道を歩いた。

電車やバスはもうとっくに終わってしまっていた。


光一は相変わらず、あたしの手をギュッと握っていた。

しばらく沈黙が続く。


「葵。俺と一緒にいるの、迷惑かな?」

ふいに光一が、そんな事を言った。


「だって、俺のこと好きじゃないんだよね?

だったら、優香とか、松井さんとか。

葵のご両親とか、もっと大事な人と一緒に過ごしたいよね」


バカだな。

本当に光一はバカだ。

あたしが命がけで光一を守ったこと。

分かってないのかな。

あたしは誰よりも光一のことが大事なのに。


もしもあと、24時間で人生が終わるなら。

一緒に過ごしたいのは、光一。

光一しかいないのに。


でもあたしは恥ずかしくて、とてもそんなこと、言えなかった。


「あたしの親は前も言ったが、あたしに無関心だ。

......だからいい......」

「俺と一緒にいても良いってこと?」

光一がさらにたずねてくる。


「......あたしも、最後に恋愛がしたい......」

あたしは、ずっと考えていたことを思わず口にしてしまった。


「えっ?恋愛......?」

光一が、あたしの顔を覗き込む。


「くそっ!なんでも無い。今のは忘れろ」

「だめだよ!ちゃんと言って。恋愛したいってどういうこと?」


光一は立ち止まるとあたしの両肩をつかんだ。

あたしは、またドキドキして光一の顔がまともに見れなくなる。


「だからっ!あたしも山口先輩といっしょだ。

あと少しでこの人生が終わるんなら、恋愛がしたいって思ったんだ」


「恋愛......」

光一が首をかしげてあたしの目を見つめる。


「そうだよ!相手はお前しかいないみたいだから、しかたないな!

いまから24時間......。もしかしたら、数時間しか無いかもしれないけど。

お前と恋愛ごっこすることにする!」


顔が真っ赤になったと思う。

だけど、深夜で暗いし、きっとバレてないよな。


あたしは、光一と一緒に過ごしたかった。

だけど、恥ずかしくて素直になれない。

だから苦しまぎれに、こんな事を言ってしまった。


光一はあたしの言葉を聞いて、黙り込んだ。


「こ、光一が嫌なら良い!あたしは家に帰る!」

あたしは、慌てて叫んだ。


「嫌なわけない。俺は葵の彼氏になる。短い間だけでもいい。絶対に離れない」


光一はそう言うと、あたしのことをギュッと抱きしめた。

抱きしめられると、暖かくて力強くて、安心した。




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