第49話_好きすぎてどうにかなりそう
「おぉーい。ニセ葵。いるか?」
大声を出しながら道場にはいる。
入り口のすぐ脇にある電気のスイッチをカチッと押した。
広い道場に明かりが灯る。
ガランとしていて誰もいない。
ニセ葵はまだのようだ。
優香を命がけで守る。
必ず連れ帰る。
だいじょうぶだよ。
カッコつけて、葵にそんなことを言ったけど。
内心やっぱり不安だった。
でも約束はぜったいに守らないと。
葵を幸せにしたい。
彼女の背負ってるものを少しでも減らしてあげたかった。
葵......。
可愛かったな。
思わず、ほっぺにキスしちゃった。
あぁ~~。
まじでやばい。
可愛すぎる.......。
葵のことが好きすぎてどうにかなりそう。
首をブルブルと振って、葵の姿を頭から締め出した。
ダメだ。こんなんじゃ。
緊張感なさすぎ。
優香を助け出さないと、暗黒のなんちゃらになるっていうのに。
......実は、なんのことやら、よくわかんないけど。
なんかやばいことになるんだよな?
「約束通り一人で来たな?」
背後からニセ葵の声がした。
俺は慌てて振り返る。
ニセ葵は、口の端をあげてニヤニヤと笑っていた。
「ニセ葵!腐ったワームで下級生物のイカレ女!
優香を早く返せ」
俺は、思いつく限りの言葉でニセ葵をののしった。
「ははは。山口優香は元気だ。
元気すぎて、若干、持て余している。
早く、お前らに返したいくらいだ」
「じゃあ、早く返せよ。優香はどこだ」
「ふん。まずはポータルを見せろ」
「輪っかだな。リュックに入ってる」
リュックのジッパーをあけて、中からポータルを出そうとすると
「まて。ゆっくりだ。そっとポータルを足元の床に置け。そっとだ。
変な動きをしたら、ナイフをお前の眉間に投げてやる」
ニセ葵は姿勢を低くして、手に持っているナイフを俺に向けた。
「そっと置くよ。乱暴にすると床にだって穴が開くんだろ」
確か豆治郎がそんなようなことを言ってた。
リュックからポータルを出すと、俺は道場の畳の上にそっと置いた。
ニセ葵はポータルに飛びついた。
床から拾い上げる。
「間違いない。1145H-B。我が故郷へ直通で行き来できるポータルだ」
「その輪っかなら、あげるからさ。ブレスレットにちょうどいいと思うよ。
だから優香を返せよ」
「バカ言うな。ポータル管理者のお前がいないと、これはただの輪っかだ」
「......そうなんだ。てことは俺やっぱり、どっかに連れて行かれる?」
「連れて行く。まずはたっぷりお前を可愛がってやる。
それから、あたしの奴隷として一生働いてもらう」
「うっ......」
ニセ葵は、穿いているズボンの尻ポケットにポータルをねじ込んだ。
そして俺のほうに手を伸ばす。
俺は、後退りしてニセ葵から距離を取った。
「優香を返せ。そうしないと俺はお前の言うことは、いっさい聞かない」
「フン。こうしてもか?」
ニセ葵は、素早い動きで俺との間合いをつめた。
ヤツは、俺の首に肘鉄を食らわせると同時に、足払いをした。
「うわっ」
俺は床に仰向けに倒れる。
ニセ葵が俺の上に、覆いかぶさり、ナイフを俺の目玉に向けた。
「......っ」
目玉のほんの数センチ?数ミリ上にナイフを向けられる。
思わず目をつぶり、顔そむける。
「よせ」
「下手に動くと危ないぞ。ほんのわずかな動きで、ナイフがグサっと刺さる」
「さぁ。あたしの奴隷になると誓え」
「なるから、優香を返せ」
「先に誓え」
ニセ葵はふたたび、俺の目玉にナイフを向けた。
冷や汗が流れ落ちる。
「誓わない......。先に優香だ。彼女を返さないなら、俺を殺せ」
ニセ葵は無言でナイフを振り上げた。
(殺される!!)
ズブッ!!
という音とともに、ナイフは俺の頭のすぐ脇の畳に突き刺さった。
「強情なやつだ」
ニセ葵はスマホを取り出すと、電話をかけた。
「山口優香を連れてこい」




