第48話_【葵】大事なものを守れない
深夜1時半。
松井は、大学の正門近くの路肩に車を停めた。
光一はぼんやりと窓の外を眺めている。
「もうすぐ時間になる」
あたしは腕時計をたしかめた。
「ポータルを持って一人で大学の道場に来いって。アイツは、光一にそう言った」
声が少しふるえてしまう。
「そうしないと、山口先輩の運命を狂わせるって」
「そうだよ。そう言ってた。」
光一はリュックの紐をギュッと握りしめた。
リュックの中にポータルが入っているのだろう。
光一が車から降りる。
あたしと松井も車から降りた。
くそっ。
この一週間、必死で山口先輩を探し回ったのに。
結局、ニセ葵に光一を差し出すことになってしまった。
あたしは、大事なものをなにひとつ守れない......。
思わず目がうるんでくる。
下唇を噛んで、涙を止めた。
泣いてたまるか。
「だいじょうぶだよ。ニセ葵から優香を取り戻してくる。
葵と松井さんは車で待ってて。
優香が解放されたら、正門の前に松井さんの車が待ってるって。
彼女にそう伝えるから」
「ダメだ......光一......。ニセ葵は普通じゃない。
きっとズタズタにされる」
あたしは思わず光一の袖口をギュッとにぎった。
「行かせたくない」
「抵抗する。あいつの好きにはさせない」
「だけど光一は前も殴られて、腕を深く切られたじゃないか」
光一はふいに身をかがませて、あたしと同じ高さに視線をあわせた。
街灯に照らされた彼の茶色の瞳が、あたしの目をのぞきこんでくる。
あたしの両肩に、光一の両手が置かれた。
あたしは153センチしか無いけど、光一はたぶん180センチ以上あるだろう。
「出会ったころは、雑魚って呼ばれて首を絞められたりしたのに。
今は俺のこと、大切に思ってくれてるみたいでスゲーうれしい」
「あっ......当たり前だ!お前は山口先輩の大事な......あっ」
光一の顔が急に近づいてきた。
彼はあたしの頬にキスをした。
光一は、唇を離して、じっと見つめてくる。
やわらかい感触が頬に残る。
あたしは、頭が混乱して耳まで赤くなるのを感じた。
「な......なにをする。不意打ちはよくない......」
キスされた頬を抑える。
「葵が一生をかけて、命がけで優香を守ってきたこと。
そのことを、葵と行動をともにしたこの一週間で俺は知った。
葵は優香をさがすために、必死だったから。
葵が命がけで必死に守るなら、俺も優香のことを命がけで守る。
そうすることで、葵が幸せになれるなら」
「光一......だめだ。そんなこと言うな。いやだ。行かないで」
「行くしかない。だいじょうぶだよ」




