第46話_ふたりの境遇
「う......っ」
眠っていたみたいだ。
軽くて暖かい布団をはねのけ、上半身を起こした。
キョロキョロと見回すと、そこはだだっ広い和室だった。
畳の良い香りがする。
真っ白な障子と高い天井。
天井からは細かな装飾がほどこされたペンダントライトがぶら下がっている。
「ここはどこなんだ......。葵は.....葵?!」
枕元に自分のスマホが置いてあった。
スマホをタップして表示された日付にぎょっとする。
俺は何時間、眠りこけてたんだ。
そのとき障子がスッと音もなくひらいた。
「目が覚めたんだね。ここはあたしの家だよ」
「葵......。良かった。俺、寝過ぎた。
こんなに寝ちゃうなんてヤバイよな。
優香を探さなきゃいけないってのにさ。
緊張感無くて、マジでごめん」
頭をボリボリとかく。
葵は黙って首を横に振った。
「食べるものを持ってくる。あとで風呂にもはいると良い」
「......いっ!」
身体に走った痛みに思わず声が上がる。
「どうした!?」
葵が俺の布団に駆け寄る。
「筋肉がひどく痛むんだ。キツイ筋トレをしたあとみたいに」
「重いものをたくさん、ぶん投げたせいだろう」
葵が俺の腕をさすってくれた。
「無理するな。まだ寝ていれば良い」
「だめだよ。そんな。そうだ。葵のご両親に挨拶しないと」
「親は気にしてない。あたしに無関心だから大丈夫だ」
葵は少し寂しそうに笑った。
「無関心?」
「そうだ。あたしが山口先輩を守る運命を背負っていること。
暗黒の分岐。ポータルのこと。親は全てにおいて関わろうとしない。
関わっちゃいけないからだ」
「えっ。なんで?」
「あたしには他に姉と兄がいる。
両親は姉と兄に期待をかけているし、二人を守りたいと考えている。
それに両親は会社経営に忙しい。
あたしに関わって、万が一のことが自分たちや他の子どもに起きたら困る。
そう考えているんだ」
「そんな......」
「光一もこれ以上、あたしに関わると大変な目にあうよ。
ていうか、もう十分巻き込まれているけど」
俺は葵の手をにぎった。
「俺は、葵のことが好きなんだよ。他に大切なものなんかない。
だから、これからも関わり続ける」
「光一......」
「って言っても、俺はケンカは弱いし頭も悪いし。役立たずだけどさ。
葵のそばを離れるつもりはない」
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葵がお粥を運んでくれた。
「あぁ。腹が減って死にそう」
「粥を食ったら、この薬を飲め。松井が煎じた漢方薬だ」
「松井さんって、薬も作れるんだなぁ」
お粥をすくってゆっくりと食べた。
身体は肉を欲していたが、胃はお粥を大歓迎していた。
「あっ。やばい!バイトが今日、あるんだ」
「安め。とても働ける身体ではない」
「だいじょうぶだよ......」
そう言って立ち上がろうとしたが、足にうまく力が入らなかった。
「......あとで、バイト先に休むって連絡するわ」
お粥を完食した。
「お前の母親は?母親は学費や生活費を援助してくれないのか」
葵は俺の目をじっとのぞきこんだ。
きれいな瞳だった。
「母親とは血が繋がってないんだ。
母親は自分の血の繋がった子どもである、俺の弟を可愛がってる。
俺のことは、そうだな......あまり心配してないんじゃないかなぁ」
「そうなのか」
「そうだよ。俺も弟のことはかわいいから。
あいつのこと大事にしてくれるんなら、それでいいって思ってる」
「光一とあたしは似てるな。孤独だ」
「孤独じゃないよ?葵には俺がいるし、俺には葵がいる。
あー。やべぇ俺、いまめっちゃ良いこと言ったよな?」
ヘラヘラと笑うと、葵は俺の頬をやさしくつねった。




