第44話_化け物
そんな。
俺がこんなに大勢をやっつけた?
どうやって?
そんなこと、できるはずがない。
俺は男に殴られて意識が飛んだ。
そのあいだに、きっと葵が大暴れしたんだろう。
そうに決まってる。
それ意外考えられない。
「葵。俺は喧嘩なんかしたことないし。
こんなに大勢の男をやっつけるなんて無理に決まってる。
葵がやったに決まってるじゃん」
葵の顔を見る。
彼女は両手で身体を隠していた。
破れたTシャツから素肌が見える。
俺は自分のシャツを脱ぐと彼女に着せた。
「葵が無事でよかった。俺......まじで怖かった」
思わず彼女を抱きしめた。
そうせずにはいられなかった。
葵は抱きしめるとビクッとして身体を固くした。
「光一......」
彼女の肩が震えている。
「葵のほうが怖かったよね。
俺が弱いばっかりに。いつもなにもできなくて......ごめん」
「......」
葵も俺の背中に手を回してギュッと抱きついてきた。
「......辱めを受けて死ぬんだろうって。そう思った。
怖かった.....」
小さな声でそう言った。
だが、すぐに
「クソっ。違う!今の無し。忘れろ!」
と言って、抱擁から逃れようとした。
だけど俺は葵をギュッと抱きしめて離す気はなかった。
「怖かったら、怖いって言って。
強がること無い」
葵の頭を優しく撫でた。
「うっ。力が......強すぎる。痛いよ」
「えっ。ごめん」
力を緩めたそのとき。
「光一!うしろっ」
葵が叫んだ。
葵の声に俺は慌てて振り返った。
意識を取り戻した男が5人、俺の背後に近づいてきていた。
「あっ!気がついたんですね。大丈夫です......?」
俺が男たちにそう尋ねると、なぜか、男の一人が腰を抜かした。
他の4人は、一目散に逃げ出した。
腰を抜かした男は俺を凝視したまま
「ば、化け物......」
と言った。
股間が濡れている。
漏らしてしまったようだ。
「化け物?なにが」
自分のうしろを振り返ったが、化け物はおらず葵しかいなかった。
お漏らしした男は、四つん這いになって這うようにして部屋から出ていった。
頭を強く打って混乱しているんだろうな。
後遺症とか残らないと言いけど。
「この人たち、まさか死んでないよね」
意識が戻らない男たちを見回して葵に聞く。
「ざっと確認したが、大丈夫だろう。重症を負ってるものが多いがな。
死ぬことはなさそうだ。
光一。このビルから出よう。
ほかの奴らも意識を取り戻し始めてる」
葵と俺は手を繋いで、ビルから出た。
地下駐車場のスロープを走って上がる。
そして植え込みの陰で、松井さんが来るのを待った。




