第43話_罠にハマる
「だから言ったんだ。あの野口って男は信用できないって......」
「野口さんが嘘をつくなんて。
あんなに美味しいクロワッサンを食べさせてくれたのに」
「光一、よく覚えとけ。優しい言葉や甘い話にはウラがあるってな」
俺と葵は大勢の男たちに囲まれていた。
何人だかわからないくらい大勢だ。
男たちはジリジリとこちらに距離を詰めてくる。
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葵は野口さんに向かって「胡散臭い」とブツブツ言っていた。
でもほかに手がかりもない。
結局俺たちは「通過袋Sサイズ」と引き換えに、彼から情報をもらった。
その情報を頼りにラブホテルを出て、街なかの雑居ビルまできたのだった。
「気を引き締めろよ。このビルの中にニセ葵がいるって話だ......
もちろん野口がニセ葵とグルで、ワナって可能性もある」
「ニセ葵の相手は俺がする。葵はダメだよ?
葵がいなくなったら、優香だって困る。自分を大切にしてほしい」
「分かってる。直接対決はしない。
山口先輩がここにいるのかどうか、それを探ろう」
俺たちは、地下駐車場入口をみつけた。
ゆるやかなスロープをすばやく駆け下りる。
幸い、警備員などはおらず、地下駐車場に侵入できた。
駐車場の奥、入り口と書かれた矢印の先に、鉄製のドアがあった。
「あそこから内部に入れる」
葵が小声でささやく。
そっとドアノブを押すと、ドアが開いた。
ビルの中はシンと静まり返っていてカビ臭かった。
「おい!ニセ葵、食べ物をよこせ」
優香の声が突き当たりの部屋から聞こえた。
俺と葵は目を合わせる。
「早くよこせ。腹が減ってんだよ!」
足音を立てないように部屋に近づく。
部屋の入り口にはドアがなく、アーチ状の開口部がある。
そのアーチ状の開口部の奥から、優香の声が聞こえてきたのだ。
俺と葵は、部屋の開口部の柱に隠れて、そっと部屋の中を覗いた。
薄暗くてよく見えないが、部屋の奥に椅子に座らされ縛られている優香が見えた。
葵は姿勢をひくくして部屋の内部に侵入した。
俺も慌ててあとに続く。
「くそっ。縄をほどけよ!トイレにいかせろ」
優香の声がシンとする部屋に響く。
葵が優香の肩に手をかけ、顔をのぞき込んだ。
「しまった」
葵が小さくうめく。
「えっ」
俺も優香の顔をのぞき込んだ。
優香の顔は「へのへのもへじ」が書かれた布だった。
人形だったのだ。
人形の膝の上にはICレコーダーが置かれ、そこから優香の声が流されていた。
「やられた」
「お前らのこと、痛めつけろって命令なんだ」
そのとき、うしろから男の声がした。
「チッ」
葵が小さく舌打ちする。
うしろを振り向くと、大勢の男達がいつのまにか部屋に侵入してきていた。
やつらは、じりじりと距離をこちらに距離を詰めてくる。
「だから言ったんだ......」
葵がつぶやく声が聞こえた。
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「男の方は痛めつけるな、だが女は好きにして良いって
お前にそっくりな女に、そう言われた」
男のリーダー格が、葵を指さして言った。
「俺たち......ちょっと迷子になっちゃって。
トイレ探してただけなんです~」
俺は男に言ってみた。
「ハハハ。いかにも弱そうだな、お前。
女がいたぶられるのを、お前はせいぜい、見学してるんだな」
男はそう言うと、他の連中にアゴで合図する。
俺は、手足を男たちに抑えられてしまった。
「クソッ。油断した」
「殺すかどうか、迷うところだな。しばらく楽しんでから殺しても良いし」
リーダー格が葵を見てニヤニヤ笑う。
野蛮な女たちをここに連れてくればよかった。
そうすれば、こんな男どもギタギタにやってくれただろうに。
俺は心底、後悔した。
リーダー格が葵の頬をギュッとつかみ自分の方に顔をむかせた。
「やめろ!葵にさわるな」
葵に触れる男を見て、俺は叫んだ。
男たちの拘束から逃れようと必死に身をよじる。
だがびくともしない。
葵はこともあろうか、「ペッ」と唾を男の顔に吐き出した。
まじか。
映画でしか見たことのない場面だ。
「気の強い女は好みなんだ......」
他の男が葵の手足を拘束した。
リーダー格が葵の身体に手を伸ばす。
「ちょっと待てって!俺を殴ったらどうだ?
男同士の戦いだ。女をいじめてどうする?
情けないなぁ。弱い者いじめか!」
男に向かって必死に怒鳴った。
リーダー格は俺に目もくれず、葵のことをじっと見ている。
葵は眉をしかめて、嫌そうに顔をそむけている。
男は葵のTシャツを引き裂いた。
そして、身体にさわりはじめた。
それを目にしたとき、俺の中の何かが壊れた。
何かが壊れて、そして爆発した。
「だめだ!!この野郎。葵に触ったな!.......ゆる......さな......」
自分の頭の中に、火花が散るのを感じた。
意識が遠くなり、男たちの動きがスローモーションになる。
葵が。
俺の大事な、葵。
俺だけのもの。
俺の意識はそこで飛んだ。
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「......っ!」
俺は意識を取り戻した。
周囲には男たちが倒れている。
痙攣を起こしているものや、呻いてるもの、足がありえない方向に曲がっているものもいた。
「葵!?葵!!」
キョロキョロとして葵を探した。
「大丈夫だ。なんともない」
葵が、ボロボロのTシャツを着て、俺の後ろに立っていた。
「......うそだろ。葵が全員、やっつけたの?強いなぁ!やっぱり」
俺がそう言うと葵は目を見開いた。
「光一が全員、倒したんだ......」
葵は心配そうに俺を見あげた。
「えぇっ?またまたぁ?そんなわけ......」
自分の両手を見る。
拳は血に塗れ、ヒリヒリと傷んだ。
腕に引っかき傷のようなものが無数にあり、殴られたような痛みもあちこちある。
「えっ......あれっ」
「落ち着け、今は考えなくて良い。松井を呼んだ。
ヤツの車でここから逃げよう」




