第41話_豆治郎の姿と502号室の男
「シャツのボタンしっかり閉じとけ。
女たちが物欲しそうに光一のことを見てる。
いつ食べられてもおかしくない。
あたし一人で守りきれるか分からないぞ」
葵が低い声で俺に言った。
ホテルの廊下のすみから、女が何人もこっちを見ていた。
女に脱がされて、シャツのボタンがだらしなく開いていた。
中にTシャツを着ていたが女たちにとっては、これでも露出度が高いようだ。
「マジで怖すぎんだろ」
震える手で、慌ててボタンを一番上までキッチリ止めた。
「そんな目で見るな!どっか行けよ」
俺は廊下のすみにいる女たちに向かって、大声で言った。
「キャアァア。かわいい!声もかわいい!」
失敗だ。
女たちはかえって嬉しそうにしている。
そのとき、ありえないものが見えた。
女軍団の後ろのほうに豆治郎が見えたのだ。
「アレ!?豆治郎?どうしてここに......」
「どうした?」
葵が怪訝そうに俺を見あげる。
「豆治郎がいたんだ」
「えっ?まさか」
ところが、葵から女軍団のほうにもう一度、視線を戻すと豆治郎はいなくなっていた。
「いるわけないだろ。ここは合言葉を知らないと入れない極秘施設だ」
「そう......だよな......」
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廊下の突き当りに1階に降りるエレベーターがある。
そのエレベーターに向かって、俺と葵は、細長い廊下をズンズン歩いた。
廊下の途中で、502号室の扉がふいに少しだけ開いた。
隙間から50代くらいの太った男が顔をのぞかせている。
「一部始終を見ていたよ。
女に襲われそうになった君を、彼女が止めた。
なんだか感動しちまったよ」
太った男は言った。
「男の人だ......!なんかホッとする~!
あなたはこんなところに住んでいて大丈夫なんですか」
俺は思わず、男に詰め寄った。
「大丈夫だ。君みたいに見た目もよくないし。
俺が勃たないのは彼女たちもよく分かってるからね。
女たちは、同郷の男には手出ししないんだよ」
「野蛮な女の世界のご出身でしたか......
ワクチンの副作用なんて、とんだ災難でしたね」
葵はだまって、疑り深そうに男のつま先からてっぺんまで眺め回していた。
「まぁ、廊下で立ち話も何だから、僕の部屋に入りなよ」
「こいつ、うさんくさい。行こう、光一」
葵は男を不審者を見るように睨みつけた。
「いまちょうど、クロワッサンが焼き上がった。
淹れたてのコーヒーもあるんだよ。
クロワッサン、たくさんあるから食べて行ってほしいんだけど」
「いただきます!!」
昨夜から何も食べていなかった俺は飛びついた。
確かに男の部屋の中から、パンの良い香りがしていた。
「チッ」
葵が小さく舌打ちした。




