第40話_【葵】何よりだいじなもの
あたしは小さい頃から山口先輩のことを最優先に考えてきた。
通う学校も習い事も趣味も、すべて山口先輩に合わせてきた。
なぜなら、あたしは彼女を守らなければいけないから。
彼女を守るためには、片時も彼女から離れてはいけない。
だから、あたしは彼女の行動に自分を合わせる必要があった。
自分の好きなことをする時間なんて無かった。
山口先輩がどこかへ出かければ、あたしもついていかなければいけない。
彼女が、興味を持ったものは私も、興味を持たなければいけない。
すべてを犠牲にしてきた。
だってそうしないと世界が終わるから。
そう教え込まれてきたから。
だけど........。
ホテルのドアをにらみつける。
光一まで?
ほんとに彼まで犠牲にするの。
自分のこぶしが震えているのに気づいた。
今までのあたしなら、なんとも思わない。
赤の他人でもなんでも、利用できるものは利用する。
そうやって今まで乗り越えてきた。
だけど。
どうしてだろう。
初めてだ。
こんな感情......。
嫌だ......。
光一がほかの女に触られるなんて。
やっぱり嫌だ!
気がついたら、あたしは部屋のドアを激しく叩いていた。
オートロックで鍵がかかっていて、ドアはびくともしない。
あたしは、ドアを激しく叩き、足で蹴った。
「開けろ!このやろう!くそっ!あきやがれ」
あかない。
絶望感が襲った。
光一はいつだって優しかったのに。
「葵......死なないで」
そんな寝言まで言って、あたしのことを大切に思ってくれたのに。
それなのに。
また思い切りドアを叩いた。
「開けろ!開けるんだ!」
ガチャ!
ドアが急にひらいた。
「うわっ!」
あたしはよろける。
光一が出てきたのだ。
あたしは勢い余って、彼の胸に倒れ込んだ。
「葵.....」
光一はあたしを抱きとめた。
「光一、悪かった。こんなことしなくていい。
こんなことさせるなんて、どうかしてた」
あたしは思わず彼の背中に手を回してギュッと抱きしめた。
「思い直してくれたんだ。めちゃくちゃ嬉しい」
「あ、当たり前だ。お前は山口先輩の彼氏だから!大事に扱わないと」
急に恥ずかしくなって、光一から離れた。
「それでもいい。そんな理由でも。俺のこと大事に思ってくれたなら」
光一はそう言って笑った。
「実は、俺も無理だなぁと思って、いま逃げ出そうとしてたんだ」
光一は、そっとうしろを振り返った。
そのとき、背後から女の声がして、光一の肩に手が伸びる。
「約束は守れ。あたしを楽しませるんだ」
「クソアマ。汚い手で光一にさわるんじゃねえ」
あたしは叫ぶと、女のみぞおちに逆突きを一発かました。
「グフッ」
女がうずくまる。
「いいのかい?あんたの分身の居所がわかんなくても......。
あたしを拷問したって、居場所は吐かねえ」
「拷問なんて、体力と時間の無駄だ。
おまえにもう用はない」
吐き捨てるように女にそう言うと、あたしは光一の手を握った。
「さぁ、長居は無用だ。行くよ」
「そうだね」
光一はあたしの手をギュッと強く握り返した。




