第39話_飢えた女の餌食に
ホテル・別世界の一室。
俺は真っ赤なベッドの上に押し倒された。
女が俺の上に、またがる。
葵が眉をしかめて、こっちを見ていた。
俺の上にまたがった女が葵にむかって叫ぶ。
「あんた、ずっとそうやって見てるつもりかい?
見られながらするのも興奮するけど。
アハハハ!」
ドアから出ていこうとする葵に向かって、俺は言った。
「......葵は、これでいいと思ってる?」
彼女は、俺から目をそらした。
「俺は優香のためでも、世界のためでもない。葵のために犠牲になる。
葵のことが好きだから。......だけど、なんでだろう。悲しい」
「なにをグチグチ言ってんだ。その口をふさいでやる」
女はそう言うと、俺の口にキスをした。
葵はバタンとドアを強く閉めて出ていった。
(葵......。ほんとに俺がこんなことされても良いって思ってるんだ......。
俺のこと、やっぱり、べつに好きじゃないってことなのかな)
俺は女に服を脱がされながら、本格的に悲しくなって目をつぶった。
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話を少し前に戻す。
俺と葵は、ホテル・別世界の内部に入り込んだ。
内部はラブホテルそのもので、部屋を選ぶパネルまであった。
だがパネルの電気は、全室消えていて、まったく機能してないようだった。
葵は迷うこと無く、エレベーターに乗り込み、5階のボタンを押した。
「ここを仕切ってるやつが、5階に住んでるんだ。
ちなみに地下では、この世界で暮らすための偽造書類をつくってる」
「へえ~。とてもそんな施設には見えないけど......」
エレベーターが到着。
薄暗く長い廊下を歩いて、505号室のドアをノックする。
「モニターであんたが来たの見てたよ。葵」
部屋から、でっぷりと太ったヒゲの男が出てきた。
40代くらいだろうか。
室内の丸テーブルには、ヒゲの男のほかに3人の男女が集まっていて、ポーカーをしていた。
「朝っぱらからゲームかよ。邪魔したね。
手短に話すよ。あたしのドッペルゲンガーがここに来てる。しかもワームだ。
そいつを探してるんだ......。見なかったかい?」
葵は、懐から四角い小さなビニール袋を取り出すと男に見せた。
「通過袋、Sサイズか......。レアアイテムじゃねえか。
欲しいところだけど。葵のドッペルゲンガーは、見てねえ」
ヒゲをいじりながら、男がうなる。
「あたし、見たわ!」
ポーカーをやっていた女の一人が、俺たちの方に近づいてきた。
「あんたのドッペルゲンガー。
だけど目つきが鋭くて、あんたよりエキセントリックな女だったけど」
女はなぜか俺のことをジロジロと見ながらそう言った。
「あんたの分身、ドッペルゲンガーの居場所、教えてやるよ」
女は、葵の手にしている「通過袋」とやらに手を伸ばす。
葵は、サッと、女から通過袋を遠ざけた。
「アイテムを渡すのは、あたしの分身の居場所を話したあとだ!」
「ふん。通過袋だけじゃ、満足できないね。
その男とイチャイチャしたい」
女は俺のほうにアゴをむけた。
「......なんだと」
葵が顔をしかめる。
「おまえ、野蛮な女の一人だな!?」
俺は、ゾッとして女を見た。
女は俺を見て、舌なめずりをしている。
40代後半か50代の女で、残忍そうな目が怖かった。
この女はたぶん、蛭間さんの故郷と同じ世界からきた女だ。
ワクチンの副作用で性欲が異様に増強されている女......。
「おまえ、ガセネタだったらどうなるか分かってるんだろうな?
......あぁ?」
葵は女の首をしめあげると、顔をものすごい近距離に近づけた。
「分かってるよ。あんたの恐ろしい噂なら聞いてる」
葵は俺のほうをじっと見た。
「あの~、葵......?もしかして......?
えっ?無理だよ!!ムリムリ!
あの~。俺、ちょっと調子悪くて。うまく機能しないと思います!」
俺は女に向かって、言ってみた。
「いいさ。機能しない男には、慣れてんだよ。
それにあたしのテクニックでどうにかしてやるし」
「いや~。どうでしょうね~」
葵は俺の肩にポンと手をおいた。
「山口先輩をどうしても見つけなくてはいけない。
光一......山口先輩のため、そしてこの世界の平和を守るためなんだ」




