第36話_葵ちゃんに全て話した
「葵ちゃん、白湯もってきた。飲んで」
「あぁ......。ありがとう」
葵ちゃんはベッドから上半身を起こそうとした。
彼女の背中を支えて、起こしてあげた。
「ほら。飲んで」
彼女は、マグカップを包むように小さな両手で持った。
ゆっくりと白湯を飲んでいる。
俺はその様子をパイプ椅子に座って、じっとながめた。
葵ちゃんは傷だらけで目も腫れてる。
痛々しかった。
「ほんとに病院に行かなくて大丈夫?
あの松井さんって人、医者なの?」
葵ちゃんの飲み終わったマグカップを受け取って、机においた。
葵ちゃんは黙っている。
「迷惑かけた」
ポツリと葵ちゃんが言った。
「えっ?」
「おまえは、ワームじゃない。
それどころか、ポータル管理者なんだな?」
「......あぁ。俺もよくわかんないんだけど。
ポータルってのを壁に投げつけると、パカッとひらいて、裸の人間が出てくる」
葵ちゃんは俺の説明を聞くと「プッ」と笑った。
しばらく沈黙が続いた。
「優香、大丈夫かな。殺されたりしないかな。男たちになにかされてないか心配だな」
俺は、大男に抱え上げられて連れ去られる優香の姿を思い出した。
葵ちゃんは無事だったけど、優香は今この瞬間も、危険にさらされている。
「殺されることはありえない」
葵ちゃんはきっぱりと言った。
「優香を殺せば、暗黒の分岐への鍵を失うことになるからな」
「なんだかわからないけど、殺されないなら安心だな。
俺は1週間後の深夜2時に、大学の道場に行くよ。
ポータルを持ってね。
ニセ葵の手下になるつもりだ」
「そのまえに、あたしがニセ葵と山口先輩の居所をつかむよ。
おまえをニセ葵に渡したりしない。安心するんだ」
葵ちゃんは俺のほうをちらっと見るとそう言った。
「葵ちゃん、優香を守るために、死の危険を犯したよね?」
「松井に聞いたんだな」
「二度とあんなことしないで欲しい」
「おまえにそんなこと言う権利はない。
あたしは山口先輩を守るためならなんだって......」
俺は思わず彼女の手を両手でにぎりしめた。
「言う権利ある!俺は葵ちゃんのことが好きなんだ。
死んでほしくない。絶対に」
「......っ!やめ......離せ」
葵ちゃんが手をふりほどく。
「......ごめん」
「とにかく!あたしは、山口先輩を守らなければいけない。
それなのに、彼女を奪われてしまった。大失態だ」
「葵ちゃん......。どうして葵ちゃんが守らなきゃいけないんだよ。
他のやつに任せられないの?」
「そう言う運命なんだ」
葵ちゃんはどこか遠くを見つめたまま、少し顔をしかめていた。
「雑魚......。いや......ポータル管理者の樫谷光一。
お前に今まで起きたこと。
それを全てあたしに話して欲しい」
「今まで起きたこと?」
「そうだよ、全て話すんだ。あますことなく」
俺は葵ちゃんに今までのことを説明した。
般若に依頼されて、葵ちゃんに告白しようとしたこと。
間違えて優香に告白したこと。
親父の失踪。
蛭間さんのこと。
トレーニングジムのバイトのこと。
優香とのことも話した。
「謎が多いな......。
般若の正体。それにお前の父親の失踪」
葵ちゃんは考え込んでいた。
「葵ちゃん、そろそろ、横になって。
早く傷を治さないといけない。
俺が一晩中、ここで看病するから、安心して寝て欲しい。
......なんなら、添い寝するけど」
葵ちゃんは真っ赤になって怒り出した。
「雑魚!図に乗るな!普段のあたしなら、お前を殴っているところだ」




