第32話_残酷なことを言ってる
優香と夜の街を駅まで歩いた。
彼女は俺の住むジムから電車で20分ほどのところに住んでいるようだった。
「光一は部活のとき、いつも葵を目で追ってるよね。
葵を見ている光一を、私は見てるんだよ」
「なんだかややこしいな」
優香が何を言ってるのか、理解できなくって首をかしげる。
「いつも葵のことばかり見てるよね!って言いたいの」
「あー。そういうことか。
葵ちゃんのことが好きだから......どうしても見ちゃうんだよ」
「どうしてあたしに向かってそういうこと、言えるの。平気な顔で」
「......ごめん......」
優香の横顔を見つめる。
彼女は、下を向いて口をとがらせていた。
豆治郎は言ってた。
優香は嘘をついているんじゃないかって。
俺と付き合いたいために、「関係を持った」っていう嘘を。
豆治郎の言ってることが真実なのか、それとも優香の言ってることが真実なのか。
判断がつかない。
優香が立ち止まって俺の腕を引っ張った。
「そもそも、最初にどうして私に告白したの?
光一は前に間違って告白した......なんて言ってたけど。
そんなの嘘だよね?
告白する相手を間違うなんて、ありえないよね?」
「ほんとに間違ったんだ。ごめん......」
「嘘だ!どういうことなのか、ほんとうのことを話してほしい!」
優香は立ち止まったまま大きな声を出した。
周囲の通行人が、なにごとかと視線をよこす。
「わかったよ。告白した理由をくわしく話す。そこの公園のベンチに座ろう?」
前方にある公園の入口を指さした。
------------------
「ごめんなさい。大きな声出して」
優香はベンチに座ってペットボトルの水を飲むと落ち着いたみたいだった。
「とつぜん部屋に来るし、しょっちゅう怒るし。最低の彼女だよね」
「そんなことないよ」
俺がそう言うと、優香はまた怒り出してしまった。
「そうやって中途半端に優しくしないでほしいの。」
「ごめん」
「いつも謝ってばかりだし。優しいけどあれ以来、手も握ってくれないし。
葵のことばかり見てるし」
「......」
何を言っても怒られそうで、俺は黙り込んでしまった。
しばらく沈黙が続いた。
沈黙に耐えきれずに、俺は口を開いた。
「優香に間違って告白したこと。
あのことなんだけど」
「そうだよ。一体、どういうことなの?
友だちと......あの石井豆治郎くんと罰ゲームでもしてたの?
ひどすぎる......ゲーム感覚で人に告白するなんて......」
「あのとき俺は、葵ちゃんに告白するはずだったんだ」
「どうして葵と私を間違うのよ。背丈も顔もぜんぜん違うのに」
「俺は葵ちゃんの顔を知らなかった。名前しか知らなくて」
「えっ?どういうこと」
「般若のお面を被った男に、言われたんだよ。
桜沢葵と付き合って深い仲になれば100万円をくれるって」
俺がそう言うと、優香は目を丸くして俺の顔をじっとみた。
しばらく後に
「はあ?」
と素っ頓狂な声を出した。
「学費が払えなくてピンチだったんだ。
どうしても100万が必要だった」
「よく分からない。変な作り話は止めて」
優香がそう言ったときだった。
「光一!」
葵ちゃんの声だった。
俺と優香はびっくりして、ベンチから立ち上がり声のほうに視線を向ける。
葵ちゃんが公園の入口に立っていた。
「その女が無限ポータルの鍵となる山口優香だな」
彼女は優香を指差すと、そう叫んだ。
「無限ポータルが開けば、光一、お前など必要なくなる」
葵ちゃんは全力ダッシュで、俺と優香のそばに走り寄ってきた。
呆然とする優香の首にナイフを当てた。
「ナイフ......!おまえ、ニセ葵だな!?」




