第31話_そうまでして付き合いたい理由
豆治郎に優香とのことを根掘り葉掘り、聞かれた。
アルコールを飲んで記憶を失い、彼女と寝てしまったこと。
その責任を取るべきだと言われ、付き合うことになったこと。
優香に「葵ちゃんのことが好きなんだ」と言っても、聞き入れてもらえないこと。
「へー。それは災難だったな。お前は酒に弱いんだな」
豆治郎はメガネをはずして、眉間をもみながら言った。
「弱いんだよ。だから一口も飲まないように気をつけてたんだけどな」
「なー。全部、山口優香のウソってことはないかな?
彼女が、お前にわざと酒を飲ませて酔っ払わせた。
実は、お前とセックスもしてない」
俺は豆治郎のその言葉を聞いて頭が混乱した。
「えぇっ!?どうして優香がそんなウソをつくんだよ。意味がわからない」
「そりゃあ、お前と付き合いたいからじゃないの」
「俺と付き合いたい......。う~ん。そうまでして?
俺は葵ちゃんが好きだって、彼女に何度も言ってるのに?
普通、そんな男とそうまでして付き合いたいかな」
俺が腕組みして考え込んでいると、豆治郎はなぜかニヤニヤと笑っていた。
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その数日後のことだった。
優香が「会いたい」と言って、とつぜんジムにやってきた。
もう夜の20時すぎだった。
「......優香。俺はこのジムに住まわせてもらっている身なんだよ。
オーナーは蛭間さんっていう女性で......。
その蛭間さんに、ここに彼女を連れ込んだらダメだよ、って言われてるんだ」
すでに酔っ払った夜に俺は優香をここに連れてきてしまっている。
だから、その「掟」は破っていることになるけど。
考えてみたら優香は、俺がここに住んでることを知らないはずだ。
だから、やっぱり「俺」が彼女をここに連れ込んだんだ。
そして無理やり彼女を......。
あぁ、時間を巻き戻したい。
「ふぅん。その蛭間さんって人、美人?」
「えっ?そうだなぁ......きれいな人だよ」
優香は頬を膨らました。
「ねえ。キスしてほしい」
優香がとつぜん抱きついてきた。
彼女の胸が自分の体に当たって、少しドキッとする。
「こんなのおかしいよ。俺は葵ちゃんのことが好きなのに」
抱きついたまま、俺のことを見上げる優香の目を見つめて言った。
「まだ私のこと、好きにならない?一ミリも?」
優香の頭をくしゃっと撫でた後、彼女の両肩に手をおいて自分から引き剥がした。
「優香は美人だから、ほかにいくらでも好きになる男はいるのに。
どうして俺みたいな下級生物で雑魚な男が良いんだよ」
「光一は下級生物で雑魚なんかじゃないよ?
誰かにそう言われたの?」
「......葵ちゃんに言われた」
「やっぱりね。葵が言いそう」
優香はくすっと笑った。
そしてまた俺に抱きついてきた。
このまま優香と二人きりでここにいると息が詰まりそうだった。
それに蛭間さんが突然ここにやってきたりしたら、おおいにマズイ。
「とにかくさ、蛭間さんに見つかったら、俺はここを追い出されてしまう。
家まで送るから」
そう言って、優香の手を強引に引っ張ってジムから出た。




