第30話_【豆治郎】無知にもほどがある
光一からメッセージが来た。
「豆治郎!一体どこにいるんだよ!?今からジムに来れない?」
「おー。久しぶり。いいよ、今から行く」
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ジムに足を踏み入れたとたん、光一が俺に飛びついてきた。
「豆治郎!やっと連絡が取れたな。
お前、どこ行ってたんだよ。部活にも全然来ないし」
「えーと......インフルエンザで寝込んでた」
「えぇ!?インフルエンザなんて全然、流行ってないのに!?
お前は流行の最先端だなぁ!」
光一は素直......というかバカなので、嘘をすぐに信じる。
ここ最近俺は、この世界に属する「もう一人の自分」が近くの大学に通っていることを突き止め、そいつの行動パターンを慎重に探っていた。
「もう一人の自分」とうっかり鉢合わせしてしまったら命取りになるからだ。
バッタリ出会わないように、相手の行動パターンや生活範囲を知っておくのは最重要事項だった。
もしも鉢合わせして、お互いがともに「自分にソックリである」ことを認識した場合、二人のうちのどちらかが、24時間以内に死ぬ。
死ぬと言うか文字通り「消える」のだ。
どちらが消えるのかは、ランダムに決まる。
このことはトラベラーズ間では、常識になっている。
般若が「もう一人の自分」である光一に会ったのは、かなり危険な行為だったのだ。
調査の結果「もう一人の自分」は俺の生活範囲に侵入してくることはなさそうで安心した。
勉強ばかりしている根暗なやつのようだ。
光一は、俺に椅子をすすめることもなく、いきなり話し始めた。
「聞いてくれ!ニセ葵が現れて、ポータルがひらいて、山口優香と付き合うことになったんだ!!」
「はぁっ?!」
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興奮する光一をなんとか押しとどめた。
ヤツは記憶力が悪いし、説明が苦手みたいで話が飛び飛びになる。
何回も話を止めて聞き返したりしてようやく、全貌がつかめた。
「蛭間っていう女は、トラベラーを相手にする商売人だったんだな。
ニセ葵は蛭間の商売敵のワームそのもの」
「ニセ葵はもう二度と現れないだろうって、蛭間さんは言うんだけどさ。
俺はなんとなくあいつがまた来るんじゃないかって思ってる」
「それで、ポータルを持ってるってホントか?」
「ポータル?あぁ~。輪っか?持ってるよ」
光一は何でもないことのように、のんびりと答えた。
光一は、自分の部屋からポータルを持ってきた。
初めて見るポータルの原型に俺は目を細める。
ポータルは恐ろしいアイテムだ。
ポータルの原型とその管理者をセットで見るのは、俺にとって初めてだった。
樫谷光一。
やはりこいつは、1142と1145を結ぶポータルの管理者だった。
もしかしたら、般若のように無数のポータルを開ける力を秘めているかもしれない。
光一は
「壁に投げつけると開くんだ。やってみようか?」
とのんきな声でいった。
「よせ!儀式は気楽に行うことじゃない」
「儀式?」
「そうだよ、ポータルを開くのは神聖な儀式だよ」
「豆治郎、そういうのもネットの動画で詳しく解説してるのか?
俺は働くのに忙しくて、ネットをチェックできないからなぁ」
光一は、雑にポータルをテーブルの上に置いた。
「おい!ポータルを乱暴に扱うなよ。
強く置けば、テーブルや床にだって穴が開くんだぞ。
それに吸い込まれれば、普通の人間は命を落とすし、
俺やお前が落ちれば、帰り道がわからなくなる可能性もある」
「そうなの?ホント詳しいなぁ」
光一はキョトンとした顔で俺を見つめていた。
俺は頭を抱えた。
蛭間って女は光一に何も教えてないのか?
こいつは、ポータルの恐ろしさを分かってない。
使いかたによっては、人間を闇に葬ることだってできるアイテムなのに。
「とにかく、一旦、ポータルはしまってきて」
ポータルを雑に扱う光一を見ていられなかった。
「話は大体わかったから。
山口優香と付き合うことになった......って言う点について、もう少し話そうか」
俺は光一の肩を叩いた。
蛭間の話も、ニセ葵の件もどうでもよかった。
俺にとっていちばん重要なターゲット「山口優香」
彼女を惑わせて暗黒の分岐へ導くことが俺の使命だ。




