第26話_【山口優香】仕返し
光一は、ビールをほんの少し飲んだだけで酔い潰れてしまった。
テーブルにふせっている彼の肩をゆすってみた。
「うーん......。葵ちゃん」
なんて、言ってる。
のんきな寝顔だった。
葵だけでなく、光一に対しても腹が立ってきた。
光一は、私に告白してくれた。
それなのに彼は告白したことを
「あれは間違ったんだ」
と言う。
告白を「間違った」ってどういうこと?
ううん、間違うわけがない。
きっと、友だちと賭けでもしてたんだ。
私に告白して、OKされるか、それとも振られるか。
そういう遊びでもしてたんだろう。
私に軽い気持ちで告白して。
そのあと、告白したことも忘れてたんだ。
ひどすぎる。
私がどんなにうれしかったか。
そう言う気持ちを弄ぶなんて、あんまりだ。
光一に意地悪したい。
それに葵のことが好きだなんて、絶対に許せない。
私の気持ちを振り回しておいて結局、葵と幸せになろうなんて、許せない。
絶対に、彼を葵に渡したくない。
そんな考えで私の頭はいっぱいになってしまった。
----------------
光一が住んでいる「ジム」の住所なら知っていた。
松井さんの調査資料を私はスマホで写真に撮っておいたのだ。
彼の住まいの住所や、交友関係、出身地。
好きな人のことはぜんぶ知りたいし興味があった。
「光一。起きて!家までタクシーで帰ろう」
彼の肩を強く揺すると、光一はぼんやりとした目で私を見た。
彼をなんとか歩かせて、店から出る。
流しのタクシーをつかまえて、二人で乗り込んだ。
光一はずっと変な鼻歌を歌っていた。
----------------------
「ここが俺の部屋だよ~ぅ」
ジムの中の小部屋に光一と一緒に入った。
狭い部屋だった。
「あぁ~。アハハハ。あぁ~~」
光一は変なことを口走っている。
本当にびっくりするくらい、アルコールに弱いんだわ。
「ありがとう」
光一はとつぜん真顔になると私に向かってお礼を言った。
「えっ......」
そしてバッタリとベッドに寝転がった。
目を閉じている。
寝ちゃったんだろうか。
光一の寝顔は子どもみたいで可愛かった。
ふいに、ベッドで横になっている光一が、私の手を強く引っ張った。
「なに?」
「こっちに来て......。お願い。一人じゃ寂しい」
光一はそういうと、さらに私の手を強く引っ張った。
「キャッ」
引っ張られて、ベッドに倒れかかった。
「柔らかい」
光一は、私の頬に触れながら、そう言った。
彼の目は、うるんでボンヤリしていて、頬が真っ赤だった。
まるで熱に浮かされているみたい。
次の瞬間、光一は私をギュッと抱きしめた。
「光一っ!酔ってるんでしょう」
私はジタバタと彼の抱擁からのがれようとしたけど、彼は意外に力が強かった。
「可愛い......」
そう言いながら私の頬やまぶたにキスし始めた。
「ちょっと!......あっ......やめ......」
首筋や肩、手首に激しくキスしながら光一は
「好きだ......」
と耳元でつぶやいた。
「光一........」
私はぼうっとなって、彼の顔を見つめ返す。
「好きだ......葵ちゃん......」
「えっ」
またショックを受けた。
嫌になる。
彼は酔っ払って、私を葵と間違えてるんだ......。
「葵ちゃん......葵......」
彼は私をギュッと抱きしめたあと、唇を近づけてきた。
(キスされる!)
そう思った次の瞬間。
「スー......スー.....」
という寝息が聞こえ始めた。
光一は私を抱き枕のように抱きしめたまま、眠ってしまったのだった。




