第25話_【山口優香】葵のことが嫌い
「えっ。おごってくれるの?楽しみだなぁ」
樫谷君はそういうと、ちょっと首をかしげて笑った。
断られるような気がしていたから「楽しみだなぁ」と言われて、すごくうれしかった。
「あれっ?ここって、ラーメン屋じゃないよね?」
私は、彼を居酒屋へ連れて行った。
よく考えたらラーメンじゃ、食べ終わったらすぐ解散になってしまう。
「この店のラーメンがすごく美味しいの」
適当なことを言った。
「ふぅん」
樫谷君は、素直だ。
相手が「こうだ」といえば、「ふぅん」って受け入れてくれる。
そんなところも、私は好きだった。
二人で乾杯をする。
私はカクテルを飲んだ。
樫谷君は
「俺はまだ未成年だから」
と言って、ノンアルコールビールを飲んでいる。
「えっ?真面目なんだね?」
「真面目っていうか。ホント言うとアルコール苦手なんだよね。
まえに友だちに、無理やり飲まされたとき記憶を失ったんだよ。
俺、酒に弱いんだと思う。成人しても飲めないかなぁ」
そう言っていた。
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「えっ?葵ちゃんと小学校から一緒なの?」
「違うよ、幼稚園から一緒」
「スゲー!!それで同じ大学で、同じ部活って......」
「腐れ縁なのかなぁ、葵とは」
私は苦笑いする。
「葵は小さい頃から武道が得意で......っていうのも彼女の家が古武術の道場をやっているから」
「へぇ~っ!」
樫谷君は目をキラキラさせて、私の話をじっと聞いてる。
彼はすごくカッコいいんだけど、仕草がカワイイ。
それに話していて楽しい。
私は、男の子にモテるほうだ。
高校のころは、しょっちゅう告白された。
それでも、「未来の婚約者」がいるから恋愛しちゃいけないってブレーキを掛けてきた。
それに葵。
彼女が、私の恋愛をことごとく邪魔してきた。
「あいつはワームかもしれない」
「未来の婚約者はどうするんだ」
そう言って、邪魔をしてきた。
だけど最近、考えが変わった。
私が将来出会う「未来の婚約者」が、私の好みのタイプじゃなかったら?
私は一度も、恋愛で良い思いをせずに、その男と結婚しなくちゃならないの?
それなら一度くらい、「超・タイプの彼氏」と思い切り恋愛してみたい。
そうしないと、きっと一生後悔する。
そういう思いが最近、強くなった。
そんなときに、樫谷君に告白された。
「もっと知りたいな......」
樫谷君は私の目をじっと見つめて言った。
(ほら、やっぱり。大抵の男の子は、私に夢中になる。
私は可愛いから......)
そんなふうに思っていると、樫谷君の次の言葉に私はショックを受けた。
「葵ちゃんのこと、もっと知りたい!」
「あ、葵のこと!?」
「うん。知りたいな」
樫谷君は、焼き鳥を頬張りながらニコニコしている。
「ねぇ、樫谷君」
「あー、光一って呼んで」
「こ、光一。前に私に告白してくれたよね?あれって......」
樫谷君は目を丸くして、私の顔を見た。
「山口さんに告白?.....」
しばらくして、手を叩いて、
「あぁっ!」
と思い出したように言う。
「ごめん!あれは間違ったんだ。ほんとにごめん」
「まちがい!?」
私は自分の顔に血が上るのを感じた。
「うん。ごめん。間違いに気づいたときに、きちんと言うべきだったよね」
「それじゃあ......私のこと......」
「俺は葵ちゃんが大好きなんだ」
顔に上った血が、一気に引くのを感じた。
私の顔は青ざめていると思う。
葵。
私の幼なじみ。
私の恋愛をいつも邪魔してきた。
「あたしが、山口先輩を守ってる」
そんなふうに、いつもエラそうにして。
葵は、地味だし胸もないし、スタイルも悪い。
だから、いつも私の引き立て役だった。
私が男の子にモテるから、嫉妬して、邪魔してるんじゃないか?
そう思ったときもあった。
「へえ......。そうなんだ。葵のことが好きなの......」
私は声の震えをなんとか抑えながら、樫谷君......光一の目を見た。
「うん。一目惚れしたみたいなんだ。
女の子を好きになるの、初めてで俺も、戸惑ってるんだけど」
光一は、恥ずかしそうに笑った。
私は悔しくて、気が狂いそうになった。
どうして?
また葵に邪魔されるの?
絶対に、光一を葵に渡したくない!!
そんなふうに思えてきた。
「ちょっとトイレ」
光一が、トイレに立った。
私は店の人にオーダーする。
「ビール一つください」
彼のノンアルコールビールを、アルコール入りのビールにすり替えた。
光一は、席に戻ってくるとビールを飲んだ。
「あれっ、味が違う気がする......」
「グラスが空だったから、新しく注文しといたんだよ。
それもノンアルコールだから大丈夫......」
「ふぅん.....そうなんだぁ。ありがと」
光一はまた、ビールをぐいっと飲んだ。




