第24話_ふかく考えるの苦手
蛭間さんと話していると、「ポータル」のことも「性欲が強くなった女たち」のことも、「ふぅん、そうなんだ」って思えたんだけど。
冷静に考えたら、おかしいよな。
壁に投げつけた輪っかの中から「野蛮な女たち」が湧いて出てきた。
一体どういう仕組みなんだ?
壁に穴が空いて、そこから人が出てくるなんて普通じゃない。
女性たちは、街にでかけた翌日、ツヤツヤした顔でジムに戻ってきた。
そして機嫌よく、壁の穴......つまりポータルを通って故郷の世界へと帰っていった。
女性たちは幸せそうだったし、蛭間さんも機嫌がいい。
俺も、お金をたくさんもらえて幸せだった。
みんなハッピーだ。
だから、仕組みはよくわかんないけど別にいいんじゃないか。
俺は、ものごとを深く考えるのが苦手だった。
おかしなことばかりだけど、みんなが幸せなら、ふかく考える必要はない、そう思った。
壁に貼り付いたポータルを剥がすと、ポータルは元通りの小さな腕輪の大きさに戻った。
「私の商売敵たちがポータルと光一を狙っている。
ワームが接触してきたら、かならず私に教えてね」
「えっ?ワームはどうやって、この世界に来るんですか。
ポータルは閉じたのに」
「この世界に来る方法はひとつだけではない......とだけ言っておくわ」
「ふぅん。まだ質問があります。
相手がワームだって、どうやって分かるんです?
俺は葵ちゃんが大好きだから、ニセ葵には気づけたけど、ほかのヤツらはニセモノだとしても気づく自信がない」
「ワームはたいてい、誘惑してくるわ。
甘いことを言ったり、誘ってきて虜にしようとするの。
不自然な誘惑を受けたらワームだと思って」
「うーん」
「ワームかどうか判断がつかなければ、いったん誘惑に乗ってみればいいのよ。
誘惑に乗ったふりをして、相手の素性を探るの」
「なるほどー。了解です!」
「頼もしいわね」
蛭間さんはニッコリと笑った。
「ポータルはくれぐれも無くしたり、奪われたりしないようにね」
ポータルを蛭間さんに手渡そうとすると、彼女はそう言った。
「えっ。俺が持つんですか?蛭間さんに返したいんだけど」
「本来ポータルは、その管理者が持つべきものなのよ」
蛭間さんはそう言うと肩をすくめた。
俺は、自分の部屋のボストンバッグの中にポータルをしまった。
ボストンバッグをベッドの下に蹴飛ばす。
(ポータルかぁ。不思議なアイテムだよなぁ)
蛭間さんに注意された。
俺が壁に投げつければ、ポータルはいつでも開く。
だけど、俺はポータルをくぐってはいけない。
どんなに好奇心が湧いても、暗闇が魅力的に見えても、ダメだって言われた。
きっと戻ってこれなくなるから。
彼女はそう言っていた。
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「樫谷くん!今日って、バイト無いって言ってたよね?
一緒に帰らない?」
翌日のことだった。
とつぜん、日本人形の山口優香が俺に声をかけてきた。
俺は山口さんの顔をじっとみた。
(急に誘ってきた......。誘惑なのか?ワームの可能性あり?)
「美味しいラーメン屋さんを知ってるのよ。おごってあげるから」
(うわっ。食べ物で誘惑!?ワームの可能性がたかまった)
蛭間さんの言葉を思い出した。
蛭間さんは、いったん誘惑に乗ったふりをして、相手の素性をさぐれ......
そう言っていた。
「えっ。おごってくれるの?楽しみだなぁ」
俺は山口さんの誘いに乗った。
山口さんと二人で肩を並べて歩き出す。
少し離れたところで、その様子を葵ちゃんが見ていたことに俺は気づかなかった。




