第22話_ポータルがひらく
「この部屋でお客さんを迎えるから」
蛭間さんは赤い扉の鍵を開けながら言った。
そこは、パーソナルトレーニングスタジオ・ヒルマのなかで、唯一、鍵がかかっていて俺が入れない部屋だった。
「うわっ、なんですか?この服」
内部はトレーニングスタジオと同じ、白い壁に灰色の床。
殺風景だ。
しかし俺の目を引いたのは、ハンガーラックにぶら下がった沢山の服だった。
あっさりしたデザインのシャツやズボンが、ズラッとぶら下がっている。
よくみると、女物の服が多いようだ。
長机の上には下着類や靴、腕時計までズラッと置いてあった。
「これはお客さんのためのものよ?安い服ばかりだけど」
「えぇっ。洋服も売りつけるんですか」
「いいえ。無料サービスよ」
蛭間さんはいつになく緊張した面持ちだった。
「光一、はじめるわよ」
「はじめるってなにを......」
蛭間さんはためいきをついた。
「光一にはいろいろと説明するよりも、実際にやってもらうほうが理解が早いと思ったの。
前のポータル管理者が急に亡くなってしまったから準備不足な面はあるけど」
「前の......管理者......?」
「そうよ。前の管理者が亡くなって、あなたに管理者権限がうつったの」
(訳がわからない)
俺は蛭間さんの言葉に首をかしげるしか無かった。
「あまり時間がないわ。その正面の白い壁。そこにむかって、さっき渡したポータルを投げつけて」
「投げつける!?」
俺は戸惑った。
(やっぱり、筋トレを教えるバイトじゃないんだな......)
バカな俺でもさすがに、気づき始めた。
これから、きっと何かおかしなことが起きるんだろう。
「輪投げみたいに投げるのよ。壁にぶつけるつもりで」
「そんなことして、この輪っか、壊れないですか?」
「大丈夫!さぁ早く」
俺は蛭間さんに言われるがまま、青く光る小さな輪っかを、正面の白い壁に投げつけた。
輪っかは壁にぶつかったあと、吸い付くようにそのまま壁にピッタリと貼り付いた。
やがて、小さかったはずの輪が、広がっていった。
まるで、生き物が大きな口を開けるかのように、パカッと大きな円に広がったのだ。
「どうなってるんだ」
壁に張り付いた大きな円の内部は真っ黒に変化した。
見たこともないくらい「深い漆黒」
俺はその漆黒に、なぜか不思議な魅力を感じた。
黒い円のそばへフラフラと近づこうとすると、蛭間さんがあわてて俺の腕を引っ張った。
「だめ!光一。吸い込まれたらあなたはこっちに戻ってこれなくなるでしょう」
蛭間さんのせっぱつまった声に、自分を取り戻した俺は、慌てて一歩うしろに下がった。
「なにかが......みえる」
「女性たちが来るわ」
漆黒の円の中にモヤモヤとした人影が見えた気がした。
やがてその影は大きくなって、こちらに向かってきた。
「人だ!しかも裸!?」
裸の女がポータルの中から現れた。
女は30代くらいだろうか。
彼女は俺の顔を見ると叫んだ。
「きゃあっ。すごい!さっそく男がいるじゃない!サービスが行き届いているわ」
女は素っ裸のまま、俺に抱きついてきた。
「彼はポータル管理者です。あなたのお相手じゃありません!」
蛭間さんが焦って、女の腕を引っ張った。
「あらっ....そうなの!なんだ」
女はそう言うと、俺の肩や頬をベタベタと触った。
「筋肉質で、良い体じゃない」
「ちょっ!上腕二頭筋に触らないでください」
ベタベタと触ってくる感じが、蛭間さんにそっくりだった。
「ようやくついたわ。楽しみ!」
その声に振り向くと、今度は別の20代くらいの女が真っ裸で堂々と俺の後ろに立っていた。
「......この男はちゃんと勃つのね!うれしい」
そういうと、その子も俺に触りだした。
「ちょっと......蛭間さん!......わっ!ダメです。俺には心に決めた人が.....うわっ」
女の一人が俺にキスを浴びせ始めた。
そのあとも裸の女たちは次々と現れ、みんなで俺を取り囲み始めた。
中には金髪で英語のような言語を話しているのもいた。
「ひ、蛭間さん......。どうしてお客さんたちは裸で俺に触ってくるんですか」
涙目で蛭間さんに呼びかけた。
「別の世界線からは、なにも持ってこれないの。
衣服は身につけていてもポータル内部で溶けて無くなる。
もちろん別世界の武器も道具もテクノロジーなんかも、いっさい溶けてなくなる。
生まれたままの姿でポータルを通ることになるの......。
彼女たちがあなたに触ってくる理由については、あとで教えてあげるわよ」
蛭間さんは、俺を取り囲む裸の女たちに向かって言った。
「ようこそ!トラベラーたち。わたしが1142H-Aの案内人です。
彼は管理者です。セックスのお相手じゃありません。
外に出れば、男は他にもうじゃうじゃいます。
沢山遊べますよ。ご安心くださーい!」
「えーっ。でもあたしこの子としたい」
女の一人がが俺の腕を引っ張った。
「参ったわね......光一、お願いできる?」
蛭間さんが俺に拝みながら頼んできた。
「無理に決まってるでしょう!!」




