表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうでもいい関係でぐちゃぐちゃしてる  作者: ゴルゴンゾーラ
終章_7人の羅針盤と運命の冬ーその後のふたり
218/218

第218話_精一杯いきる


真っ白な雪原。

俺も葵も吐く息が白い。


俺たちは木の陰に隠れて息を潜めていた。


20~30メートル先くらいに、少年が弓を引くのが見えた。

弓矢の先には、小さな野うさぎがいる。


少年が弓の弦を離す。

シュッ!

矢が勢いよく野うさぎの方へと飛んでいく。

みごと、矢はうさぎの首に当たり、うさぎは絶命した。


「やった」

少年が小さくガッツポーズするのが見える。

少年のわきには中年男性がいて、彼のあたまを優しく撫でていた。

晴樹さんだろう。


「達治......。

姉ちゃんがいたときは怖がって、弓が引けなかったのに」

葵は、震えながら達治の様子を見ていた。


「達治に話しかけてみようか」

俺がそう言うと葵は

「ううん。

達治が元気で強くなっていることが分かっただけで嬉しいんだ。

あたしに会えば、また甘えて弱くなってしまうかもしれない。

それに離れがたくなってしまう」


「そっか」


俺と葵は、悠人に座標を教えてもらって、氷河期の世界(1223H-A

)の達治のそばにポータルを開けた。


葵は過去に、末梢のトリガーでこの世界に飛ばされた。

そのときに出会った、この達治のことをずっと気にしていたのだ。


悠人が教えてくれた通り、ポータルを抜けた先は民家の納屋だった。

民家にこっそり忍び込み、洋服と靴を拝借。

しかし、服は薄く、防寒着としては役に立たなかった。


「凍え死にそうだ。帰ろう?」

俺は葵を抱き上げだ。


「ちょっと!あたし、歩けるよ?」

「葵を抱っこしたほうが、俺があったかいんだよ」


民家の玄関に服を畳んで返却する。

そして、納屋の地面に空いているポータルに飛び込んだ。


ポータルの中を歩きながら、葵に話しかける。


「ここには、また様子を見に来れば良い。

いつでも来れるんだし」

「ううん。もういい。

キリが無い。

達治は強い子だ。

生き延びる。

あたしはそう信じてる」


葵はきっぱりとそう言うと、俺の手を握りしめた。


---------------------------


ー3年後ー


教会の鐘が鳴る。


「山口先輩......すごく......すごくきれいだ」

葵が目をうるうるさせて、優香のことを見ている。


優香は真っ白なウエディングドレスを身にまとい、幸せそうに微笑んでいた。


俺と葵は優香の結婚式に招待された。

花嫁の控室で、優香と対面する。


「あのときは驚いた。

まさか運命の相手が豆次郎のドッペルゲンガーだなんてな」

俺がそう言うと、優香もうなずいた。


「あたしね、......実は、別の世界線に行ってしまったまめくんのことも、今でも大好きなの。

でもこの世界線のまめくんのことも、同じくらい好き。

これって浮気なのかな」


「それは仕方ないんじゃないか。

ドッペルゲンガーは、同じ姿かたちだけど、それぞれ微妙に個性が違うからな。

育った環境が影響するんだろうけど。

どちらも山口先輩にとって大切な存在......ってことだ。

浮気じゃない」

葵がそう言った。


「幸せになるんだよ、優香」

「ありがとう」

優香は目に涙をためた。


---------------


大学を卒業して、俺は精密機器メーカーの営業マンになった。

売ったあとに、製品の発注を忘れたりなど失敗ばっかだけど、なぜか営業成績は良かった。

先方に迷惑をかけないようにと、俺のフォローをするサポート業務の人が増やされた。


葵は、教員免許をとって、高校教師になっていた。

少林寺拳法部の顧問もしている。

生徒にかなり人気みたいだ。


俺たちは、週末、いっしょに過ごし、また慌ただしく仕事に戻る。

幸せな日々だった。


-------------------


ステンドグラスから差し込む春の日差しが眩しい。

神父が何か言うと、優香と豆次郎が「誓いのキス」を交わした。


俺は隣に座る葵の手を、そっと握る。

(俺たちも、そろそろ......結婚したいな)

そんなことが頭に浮かんだ。


教会の外に出る。

花婿と花嫁に向かって、ライスシャワーが投げられる。

それに花びらや、シャボン玉が舞う。


「きれいだな」

「ほんとね」


「新郎の石井豆次郎は、この世界を良き方向に導く発明をする。

彼は優秀な数学者だ」

いつのまにか悠人が俺の足元に来てぼそっとつぶやいた。


「そうなんだよな。

豆次郎は頭が良い。いまも大学院で研究してんだろ。

優香はそれを懸命に支えてる」

「山口先輩は、豆次郎君にいつもつきっきりだ」

葵も口を挟む。


「考えてみたらさ。

別の世界線に行った豆次郎だって、きちんとした教育を受ければ、有名な数学者になれたのにな」

俺は、豆次郎の笑顔を思い出した。

いつも頭が良くて、俺を助けてくれた豆次郎。

どうしてるだろう。


「彼は彼で、1111H-Dで与えられた運命をまっとうする。

あの世界に彼は必要不可欠だ」

悠人が静かに言った。


「みんな、それぞれ精一杯、生きてるんだよな」

「そうだ」


悠人は空を見上げた。


「この世界が暗黒の分岐から離れていくのを感じる。

いつまでもこの安寧がつづくことを願う......」


悠人は、空に舞う花びらに向かって小さな両手を大きく広げた。


「俺もそれを願う」


葵と目が合う。

彼女も幸せそうに微笑んでいた。



-----END-----

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ