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どうでもいい関係でぐちゃぐちゃしてる  作者: ゴルゴンゾーラ
終章_7人の羅針盤と運命の冬ーその後のふたり
215/218

第215話_【葵】下心


(えっと......この細い道のさきを右に曲がるのか)

あたしは、スマホの地図をクルクルと回しながら歩いていた。

地図を読むのは苦手だ。


(この道沿いにあるはずなんだけど)

ケーキの入ったビニール袋がガサガサとゆれる。


道の先で、手を振る光一の姿が見えた。

「迷わなかった?

駅まで迎えに行ったのに」

「いいんだ。

どんな場所に住んでるのか、周辺を見ておきたかったし」


「来てくれて、嬉しい」

光一は、はじけるような笑顔をあたしに向けた。

光一の笑顔を見ると、なぜかあたしはツンとした表情になってしまう。

「ケーキだ」

ブスッとした顔で土産のビニール袋を光一におしつける。

「うそっ、ありがと。一緒に食べよう」


-----------------------


「なんと、このアパートには浴槽がついてるんだ。

ずっとシャワー生活だったから、うれしくて」

「そうなのか」


光一のアパートをキョロキョロと眺め回す。

玄関から入るとすぐにキッチン。

それに6畳くらいの和室が奥のほうにあった。


「な、何も無いんだな」

和室に足を踏み入れて驚く。


部屋はガランとしてテレビもタンスも食器棚もない。

小さな折りたたみのテーブルがぽつんと部屋の中心に置いてあるだけだった。


「持ち物が少ないんだ。

......変かなぁ?」

光一は頭をかきながら、少ししょんぼりした声で言う。

「掃除が楽でいいんじゃないか」

あたしは、光一の背中を叩いた。


小さな折りたたみテーブルにケーキとペットボトルの水をならべて、二人で向かい合って座った。


「優香はどうしてる。元気出てきた?」

「まだボンヤリしてることが多いな。

でも大声で泣いたりとか......そう言うのはないし、我慢してる感じもない。

あのとき感情を吐き出したことで、かなりスッキリしたようだ」

「よかった。

ためこむのは、マジでよくないからなぁ」


光一はそういうと、ケーキをパクっと食べた。


「運命の相手はいつ現れるんだろう」

光一がケーキを頬張りながら、あたしにたずねる。


「今年の冬としか分からない」

「もうすぐ、来年になっちゃうけど」

「......そうだな。

今日、出会うのかもしれないし、来週かもしれない。

悠人には視えてるんだと思うけど」


光一は、ケーキを食べ終わると「ごちそうさま」と両手を合わせた。


「運命の相手と優香が出会ったら、葵の任務は終わるの?」

光一はミニテーブルに頬杖をついて、あたしの顔をのぞきこむ。


「終わりだと言って良いだろうな。

二人が自然な流れで出会い、恋に落ちれば、運命は暗黒の分岐からどんどん遠ざかる。

そうなれば、あたしの鍵の守り手としての役割も終わりだ」


「やった。じゃあ、いよいよ葵は俺だけのものになる」

光一がじっと目を見つめながら、テーブルに置かれたあたしの手を握った。


ドキン!と心臓が高鳴る。


分かってた。

光一の「部屋」に遊びに行くということは「そういうこと」になるってこと。

光一はあたしと二人きりになるたび、キスをしてきたり抱きついてきたりする。


この間はジムのテーブルに押し倒された。

あたしはドキドキしすぎてどうにかなりそうだった。

でも悠人がやってきて、それ以上はすすまなかった。


実はそのとき、あたしは少しガッカリした。

光一に触って欲しい......そんなふうに感じてる自分にびっくりした。


夏の間中、光一は落ち込んでいてあたしに触れたりしなかった。キスもしなかった。

光一の心の中が壊れていて、それどころじゃない......っていうのは、よく分かっていたけど。


あたしは寂しかった。

彼にキスしてほしかった。


だから、彼が元気を取り戻して、あたしにキスしてくれたとき、ものすごく嬉しかった。

もっとしてほしい......そう思った。


だから。

......だから......今日は「覚悟」してきた。

光一に、触れられても良い......。

触れられたい。

そう思って来た。


でも.......。


光一はあたしの手を離すと立ち上がった。

「テレビもなにも無いし、この部屋にいてもつまらないよね?

出かけない?面白そうな場所があってさ」


「えっ......」

あたしは戸惑う。

まさか、キスもしないつもりなのか。


「外は寒いし。こ......ここにいたい」

あたしは小声で答えた。


「そう?」

光一は首を傾げると、畳にふたたび座り込んだ。


「そうだ、悠人たちは、たびたびこの世界に来るつもりらしいよ~」

などと、ペラペラしゃべってるけど、あたしは彼の話が頭に入ってこない。


(なんか、あたしばっか、変な期待してるみたいで恥ずかしい)


「葵?どうしたの、だまりこんで」

「なんでもない......

その......、お父さんは元気だった?

こないだあったんだよね?」


「あぁ~。元気だったよ?

アメリカで働くんだって。

俺よくわかんないけど円安とかで、そっちのが稼げるとか......」


「学費......返してもらったけど、食べ物に困ってないか」

「ありがとう。バイトもしてるし大丈夫だよ」


光一は、きっぱりとあたしの援助を断った。

なんだか、それも寂しかった。

もっと甘えて欲しいのに。


「ねぇ、近所に卓球場があるんだよ?行かない......?」

光一がそんな事を言った瞬間だった。

あたしの体は勝手に動いていた。


ミニテーブルの向こう側、彼の両頬をつかんでキスをした。

光一みたいに上手にできないけど、あたしのくちびると、光一のくちびるが重なり合う。


パッと光一から離れる。

やわらかくて熱を帯びた彼のくちびるの感触が残る。


あたしの心臓はドキドキと鳴りっぱなし。

顔が真っ赤になる。

どうしてこんなこと、しちゃったんだろう。


光一が目を見開いてる。

「葵......」


「いつもキスしてくるくせに......してこないから。

だから、あたしからしてやった」

思わず変な言い訳が口から出る。


光一は自分のくちびるに指で触れている。


「だって、キスなんかしたら止められなくなる。

もう途中で止める自信がないんだ」


目をぱちくりしながら、あたしを見つめている。


光一はそんなことを考えて遠慮していたのか。


「あたし......光一に抱かれてやってもいいと思ってる」

ものすごい小声でぼそっと言った。


「えっ?なに、なに?」

光一は聞き取れなかったみたいで、首を傾げた。



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