第211話_【優香】お別れの日
まめくんと、夜の大学でデートしたその翌日。
あたしはなんだか嫌な予感がして、彼のスマホに電話をかけた。
まめくんは、出なかった。
あたしは何度も彼に電話した。
メッセージも送った。
だけど電話には出ないし、メッセージも既読にならない。
「......いやだ。まさか故郷に帰っちゃったの」
不安でたまらなくなる。
(落ち着いて。
きっと大丈夫......きっと大丈夫。
彼は黙って消えたりなんかしない。きっと大丈夫、きっと大丈夫)
なんとか、深呼吸して感情をセーブする。
(明日、渋谷の彼のアジトに行ってみよう)
その夜、あたしは不安で不安で眠れなかった。
翌朝、あたしのスマホに着信がはいる。
(まめくん!?)
スマホをパッと取り上げる。
そこには「光一」の文字があった。
「もしもし......?光一......」
「優香!いますぐ俺のジムに来れる?」
光一が慌てたような声であたしに言った。
「どうして?」
あたしは暗い声で彼に聞く。
「豆次郎がここに来てる。
俺は......」
光一が何かを言いかけたけど、あたしはスマホを切ってしまった。
そして家を飛び出した。
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「優香!来たか......」
光一があたしを出迎えた。
駅から光一のジムまで走った。
はぁっ、はぁっ......。
息が切れる。
ジムにはまめくんと、そして光一。
それに葵と、お面をかぶり和服を着た子どもが大勢いた。
「まめくん!」
あたしは彼のそばに駆け寄る。
「どうして電話に出ないの。
あたしは不安でたまらなかった!」
「......」
まめくんは下を向いて黙っている。
「一体どうなってるの?
この子どもたちは何なの?」
光一に向かってたずねた。
「俺もよく分かってない。
この子たちは全員、悠人だ」
光一は、ジムの中に散らばる子どもたちを見回しながら言った。
「悠人のドッペルゲンガー?なぜこんなに集まってるの?」
あたしはワケがわからず、動き回る子どもたちを見回した。
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「今朝、豆次郎は俺のところに来たんだ」
光一があたしの目を見ながら言う。
その目は悲しそうだった。
「故郷に帰る。豆次郎はそう言った」
「まめくん!ひどい。黙って帰ろうとするなんてひどいよ!」
あたしはまめくんの身体を叩いた。
両手の拳を握りしめて、ドンドンと叩いた。
涙が溢れ出る。
「お別れを言うのが......辛すぎて」
まめくんは下を向いてぼそっと言った。
「そんなのずるい!ひどいよ!」
「俺も豆次郎にそう言ったんだ。
きちんと優香に別れを告げるべきだって」
光一が静かに言った。
「俺たちはしばらくジムの外にいる。
二人きりでゆっくり、話して欲しい」
光一と葵は悠人たちを引き連れて、ジムから出ていった。
シンと静まり返ったジムの中に、あたしとまめくんだけが立ち尽くす。
「まめくん。嘘だよね?帰るなんて」
まめくんは、下を向いていた。
でもゆっくりとあたしの方に視線を向けた。
「......俺は帰る。
故郷に帰る」




