第210話_【優香】告白の場所で
「ねえ、ここで告白してくれたんだよね」
「そうだったね」
まめくんは遠くを見ている。
あたしとまめくんは、夜の大学に忍び込んでいた。
大学のA棟とB棟をむすぶ渡り廊下。
夜の街がガラスに映し出されて、夜景がキラキラと光っている。
ここでまめくんは、あたしに告白してくれた。
「あのとき、あたしは光一にフラレて傷ついてた。
光一が夢中なのは葵なんだって、ようやく気づいた」
まめくんが、あたしのほうを見て黙ってうなずく。
「でも今思えば、光一のこと、本気で好きじゃなかった。
ただ、運命の冬が来る前にカッコいい彼氏がほしいって、あたしは焦っていただけ」
まめくんはまた、夜景に視線を戻す。
ぼんやりと遠くを見ている。
「ほんとうに人を好きになると、どんな気持ちになるか。
今なら分かる......あれは恋なんかじゃなかった」
あたしは、遠くを見るまめくんの肩によりかかった。
彼の肩に鼻をうずめる。
まめくんは、そんなあたしを抱き寄せて、そっと頭をなでてくれた。
「俺は、光一にフラレて傷ついている優香に近づいた。
誘惑するためだった」
まめくんは低い声で言った。
「暗黒の分岐を狙って、好きでもない女の子に告白したんだ」
そう言いながら、あたしの顔をのぞきこむ。
「でも......いつの間にか、好きになってた
......優香のことしか考えられなくなってた」
まめくんは、あたしのくちびるにそっとキスした。
彼にキスされると体の芯があつくなって、幸せな気持ちになる。
「ほかの人なんか、考えられない。
まめくんが良いの」
あたしはまめくんの、腕にしがみついた。
「でも優香は、自分を抑えてるよね?まだコントロールできてる」
「そうだよ!!」
あたしは大きな声を出した。
誰もいない渡り廊下に、あたしの声が響き渡る。
「あたしは、まめくんのことが好きでたまらない。
だけど、なんとか気持ちを抑えてる。
運命の相手と結ばれなければいけないって自分に言い聞かせてる。
だって、そうしないと世界が崩壊してしまうから」
「優香」
まめくんは、あたしの両手を自分の両手で包みこんだ。
「運命の相手は、優香が惚れ込んで一生を捧げる相手だよ。
きっといいヤツに違いない」
「.....いやだ。そんなこと言わないで」
「優香をうんと大事にしてくれる。
優香が惚れ込む相手なんだから、俺よりイケメンで俺より背が高くて、俺より面白いヤツに決まってる」
「まめくんがいい......まめくんがいいよ......」
激しく首をふる。
涙がボロボロこぼれて止まらなかった。
でもなんとか、悲しみをセーブする。
ツラくても悲しくても、あたしは感情をセーブしないといけない。
そうしないと、大地震や火山の噴火?それとも隕石が落ちてくる?
きっと悪いことがおきてしまうから。
あたしは感情をセーブし続けた。
涙がボロボロ流れ落ちるけど、泣き叫んだりはしなかった。
肩がブルブルと震える。
小さく嗚咽が口から漏れる。
それでも、けっして。
泣き叫んだりは出来なかった。




