第21話_いよいよ初仕事
「んー.......っと」
ローテーブルに頬杖をついて、蛭間さんの顔をじっと見つめる。
「なんなのよ?早く言いなさいよ」
日曜の昼下がり。
俺と蛭間さんは、ジムの応接室でたこ焼きを食べていた。
「蛭間さんに言わなきゃいけないことが、あったような気がする。
.....だけど思い出せない。なんだっけなぁ」
「なんなのよ~。愛の告白かしらぁ?」
蛭間さんが俺の手を握ろうとしてきたので、あわてて手を遠ざけた。
葵ちゃん以外の女とじゃれ合うワケにはいかない。
「......分かってるわよぉ。光一には好きな人ができたから、あたしとイチャイチャできないんでしょう。その好きな子とはどうなってるの?」
「そうだ。聞いてくださいよ。
葵ちゃんって子なんですけどね。毎回、俺を殴ったり蹴ったりしてくるんですけど」
「えぇ!?殴ったり蹴ったり!?」
蛭間さんは俺の話に目を丸くしている。
「最近、その暴力が弱まってきているんです。
あきらかに手加減してるっていうか。
最初のころは、殺されそうな、勢いだったのに。
なんでだろう。......もしかして、俺とのじゃれ合いに飽きてきたのかな」
「殺されそうだったの!?」
「そうですよ?ナイフを指と指の間に突き立てられたり......。
んっ......ナイフ......。そうだ!」
そうだった。
ナイフで思い出した。
蛭間さんに話すべきこと。
それはニセ葵のことだった。
どうして俺はすぐに大事なことを忘れるんだろう。
ニセ葵は確か言ってた......。
A?B?......??Cだっけ?なんたらのワームがきてるとか?
それを蛭間さんに伝えろって.......?
あれ?.....違ったかな。
「蛭間さん」
俺が言おうとすると、蛭間さんは急にソファから立ち上がった。
「前にたい焼きを一緒に食べたときに、言ったよね。
お客さんが通過するって。
それが実はもうすぐ始まるの」
「えっ!?も、もうすぐ!?」
蛭間さんは、腕時計を見た。
「もうすぐよ。あと少ししたら準備に入る」
「は......はいっ」
いよいよか。
いままで筋トレを頑張ってきたけど、実際に人に教えるとなると緊張するな。
筋肉の部位の名前を、俺はサッパリ覚えられなかった。
唯一、覚えた名称は「上腕二頭筋」
なにか聞かれたら、「上腕二頭筋」で誤魔化そう。
「光一。今からポータルを渡す。
これは光一にしか使えないものなの」
蛭間さんが床に置いていた自分の黒革のバッグをゴソゴソとあさった。
「......ポータル?」
どこかで聞いた名称だ。
そうだ、ニセ葵が言っていた言葉じゃないか?
あいつは、「ポータルの場所を言え」って言ってたような。
蛭間さんは黒革のバッグから、青白く光る小さな輪っかを取り出した。
ちょうど腕輪くらいの大きさだ。
「これがポータル。今から使い方を教える」




