第209話_久しぶりのキス
6つのポータルを開く日がやってきた。
ポータルをひらけば自動的に、各世界線の悠人たちがこの世界にやって来るはずだ。
ポータルを通ってくるんだから、6人とも裸で現れるだろう。
それに抹消のトリガーを防ぐために「お面」も必要だな......。
「あたしが用意する。
うちの納屋にお面がいくつかあった気がするし」
葵がそう言ってくれた。
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その日、葵はジムに子どもの着物と子鬼のお面を持ってきてくれた。
葵がミニキッチンのテーブルの上に着物とお面を広げる。
「なるほどなぁ。和服を着せれば、お面をしていても怪しく思われない。
季節外れだけどさ。お祭りかな?って思われるくらいだよな」
「寒いから、陣羽織も用意した」
ガサガサと紙袋から、羽織を取り出す。
「葵、ありがとう
6人の悠人を道場で預かってくれるって」
「このジムじゃ、寝床がないからな」
葵はジムを見回した。
「俺も葵の道場にお泊りしようかなー。
悠人たちと雑魚寝もたのしそうだし」
チラッと葵をみる。
彼女は着物を丁寧に畳んでいた。
葵とずっとキスしてない気がする。
夏じゅう、俺は落ち込んでいて葵とイチャイチャできなかった。
そのあとも二人きりになるチャンスはすくなかったし。
彼女を見ていると、どうしても触れたくなってしまう。
テーブルに並べた和服を畳んでいる葵に近づいた。
そして後ろから抱きしめる。
「......っ!光一......」
葵はびっくりしたみたいで、息を呑んだ。
「ごめん」
あやまりながら、彼女のうなじにキスをする。
「ちょっ......。光一、準備しないとっ」
葵は俺の腕をふりほどいて、ふりむくと腕時計を叩いた。
「ちょっとだけ」
腕時計を見せる彼女の手首を掴むと、そっとくちびるにキスをする。
葵を抱き上げてテーブルの上に座らせるとそのまま激しくキスをした。
「すごい好き......」
「こ、こうい......んっ......」
葵をテーブルの上に押し倒した。
「あっ、だめ......」
俺は「だめだ」と言おうとする葵の口を、急いでキスでふさいだ。
(もう限界)
彼女の手首を握って、テーブルに押し付ける。
柔らかい体に触れようとしたそのとき......。
「光一!!きたぞ!!」
ジムの出入り口のほうから、悠人の声がした。
「いつものパターンだな。
そろそろ来るんじゃないかなって、思ってた。
予知能力のない俺にだって分かる」
俺は葵の腕を優しく引っ張って、テーブルから起こした。
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6つのポータルはすべて、都内で開けることが出来た。
悠人の指示通りポータルを次々と開ける。
下水道の壁......、中学校の体育館の壁、それに裏道のマンホールの上。
場所はいろいろだった。
穴から出てきた「悠人」に着物を着せてお面を被せる。
「光一!!」
最後のポータルから出てきた悠人は俺の名前を叫びながら、抱きついてきた。
「お前は、俺といくつもの世界線をくぐり抜けた、悠人だな!?」
「そうだよ!会いたかった、光一」
「俺も会いたかった」
素っ裸の悠人に着物を着せた。
「さぁ、全員がそろった。
今日は葵の道場で休ませてもらう。
我々は子どもだから体力があまりないのでな」
この世界の羅針盤である悠人が大きな声でほかの悠人たちに司令を出した。
やつは悠人軍団のなかでもひときわ目立つ、金色の子鬼のお面をしていた。
「じゃあ、葵の家に向かおうか」
着物を着て、子鬼のお面を被った子どもたちを引き連れて歩く。
通行人にジロジロ見られた。
「駅前のパーキングに松井が迎えに来てくれてる」
葵が俺のそでを引っ張りながら言った。
「わぁ、それは助かる」
俺は小さな悠人たちの頭を、つぎつぎと撫でまわしていた。




