第208話_ハッピーエンド?
12月に入った。
優香と運命の相手が出会う冬。
いわゆる「運命の冬」がやってきたのだ。
優香と豆次郎......あの二人がどのような結末を迎えるのか。
優香と豆次郎の恋路を守るためなら、世界がめちゃくちゃになったっていい。
......そんなふうには、やっぱり思えなかった。
二人のことは大事だし、幸せになってほしい。
強くそう思うけど。
俺はどうすればいいのか。
どうすることが最善の道なのか。
いくら考えても、情けないことに分からなかった。
「羅針盤」に言われた通り、然るべき時と場所に6つのポータルを開ける。
それしかできることは無いように思えた。
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「光一、元気がないな」
葵が俺の顔をのぞき込む。
その日、レポートを仕上げるためにふたりで公共の図書館に来ていた。
近くにあるカフェテリアで昼食を摂っていた。
「葵は考えない?優香と豆次郎のこと。
俺はこのあいだ豆次郎に言ったんだ。
豆次郎は故郷に帰って妹と過ごすべきだって」
葵はだまりこんだ。
「豆治郎くんの故郷のことなら聞いた。
そして暗黒の分岐を目指した理由も」
葵はオムライスをスプーンですくった。
そしてモグモグと食べている。
「あたしは、ワームは腐ったウジ虫野郎としか思ってなかった。
だけど、ワームだって生きるのに必死で......。
自分の故郷をより良くしたくて。
大切な人を平和な世界に招き入れたくて必死なんだと分かった」
葵はためいきをついた。
「あたしは視野が狭かった。反省してる」
「葵はマンダラに思想をうえつけられていたんだ。仕方ないよ」
俺はうどんをすすった。
肉が一切れしか入っていなくてガッカリした。
「あー、そう言えばさ......
豆次郎に会ったあと、悠人が来たんだ」
「えっ?」
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俺は葵に「7人の羅針盤」の話をした。
葵は俺の話を聞くと目を丸くした。
「なぜそんな大事な話を今までしない。
津江さんが亡くなったというのは、有名な話だけど。
羅針盤から司令を受けただなんて、なぜ今まで黙っていた?」
「葵の顔を見ると、そういうの、忘れるんだよな。
葵は...可愛いから。すごい好きだって気持ちでいっぱいになる。
それしか考えられなくなる」
「それ以上、恥ずかしいことを平気で言うな」
葵は、下を向いて麦茶をすすった。
「なにが恥ずかしいんだよ」
俺は首を傾げながら白湯を飲む。
「暗黒の分岐が進むのか......ということは、山口先輩と豆治郎くんは別れないってことか」
「えっ?そうなるのかな?
よく分からないなぁ」
うどんの汁を最後まで飲み干すと、丼をテーブルに置いた。
葵は、宙を見つめたまま黙り込む。
なにかを懸命に考えているようだった。
「二人は別れない。
山口先輩は、運命の相手とは結ばれない。
ゆえに、暗黒の分岐が進む」
葵はテーブルの上の水滴でなにか図を書きながら、ブツブツ言っている。
「その暗黒の分岐が進むのを、7人の羅針盤が止めるんだ。
それでハッピーエンドなんじゃない?」
「七人の羅針盤が......暗黒の分岐を......止めつづける?
一時的ならまだしも、永遠に止め続けるなんて、一体どうやって......」
葵はちいさくつぶやいた。
「悠人は......羅針盤は何を考えているんだろう。
いくら大勢の羅針盤があつまったところで、永遠に暗黒の分岐を止め続けるのは不可能なはず」
「悠人は詳しく教えてくれない。
知ってるだろ。
未来はいくつもの分岐に別れてる。
悠人にも予測がつかないのかもしれない」
葵はちいさくため息を付いた。
「なんだか不安だ」
「大丈夫だよ。俺がついてる」
テーブルに置かれた葵の手を握った。
葵は俺を睨みつける。
「今後、羅針盤から何か命令を受けたら即座にあたしに電話するんだ」
「分かったよ。ごめんって」




