第206話_7人の羅針盤が必要
悠人の話では、津江さんは3日前の朝、眠るように亡くなったらしい。
「そんな......。悠人。かわいそうに。つらかったな」
しゃがみこんで悠人をぎゅっと抱きしめた。
あたまをそっとなでてやる。
「......っ。辛くなんかない。
口うるさいババァが死んで、僕はせいせいしてるんだ」
だきしめていると、悠人の肩が震えてるのに気づいた。
「僕はババァが死ぬ未来が視えていた。
あらかじめ心構えができていたんだ。
......だからっ......さびしくなんかないんだ......くそっ」
悠人の顔をみる。
その顔は涙でグシャグシャだった。
「悠人。
あらかじめ津江さんの死が分かってたんだな。
それなら、予知していたときからずっとツラかったはずだ。
普通よりツラいはずだよ?
強がるな。俺には甘えろ」
悠人をぎゅっと抱きしめる。
「優しくするな。よけいに泣けてくる」
悠人はヒックヒックとしゃくりあげはじめた。
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ビルの1階にある自動販売機で甘いジュースを買う。
ジムに戻って悠人にジュースを渡した。
悠人はだいぶ落ち着いたみたいだった。
「今はジョージが法律上の僕の保護者になっている」
「ジョージ......あの、津江さんの側にいつもいた、白人男か」
「......それで、暗黒の分岐の件だけど」
「うん」
悠人はミニキッチンの椅子に座って、足をブラブラさせながらジュースを飲んでいた。
こうしてみると、ただの子どもだ。
津江さんを失ってどんなに寂しい思いをしただろう。
悠人は故郷で、両親も失っている。
天涯孤独じゃないか。
俺は母親に10年間会えなかったことを恨んでシクシクと落ち込んでいた。
悠人を見習わないといけない。
「ババァの遺言を光一にもつたえる」
「津江さんの遺言......」
悠人は、津江さんの声音を少し真似て、遺言の「ことば」を暗唱した。
「暗黒の分岐をなんとしてもふせくのじゃ。
それには、羅針盤の力がまだ不足している。
7人の羅針盤をそろえる必要がある」
「7人の羅針盤......?」
意味がわからず、俺は悠人に聞き返す。
「そうだ。各世界線で生き残っている「俺」をこの世界に呼び寄せる」
悠人はジュースのペットボトルをグシャッとつぶしながら言った。
なるほど。
暗黒の分岐を防ぐために、各世界線の「悠人の分身」を呼び寄せるというのか。
「7人。そんなに呼び寄せるのか?」
「光一バカだな。僕を入れて7人だから、あと6人だ。
各世界線で、病死せずに生き残っている僕の数が6人しかいないんだ」
「6人」
行ける範囲の並行世界はぜんぶで、たしか20。
そのなかで、生き残ってる「悠人」は6人しかいないのか。
「それじゃ、あの悠人にも会えるかな?
マンダラの施設から、両親のもとに戻した、あの可愛い悠人」
「やつも、まだ生きてる」
悠人はゆっくりとうなずいた。




