第202話_空白の10年間
葵をひざの上に乗せて、抱きしめる。
そして彼女のくちびるに軽くキスをした。
軽くキスをするだけ......そう思っていたのに、やっぱり止められなくなる。
彼女の足に腕をまわして、自分の身体にぴったり密着させた。
そして頬を片手で固定して激しくキスをする。
彼女の柔らかい下唇を自分の口ではさむ。
それから上唇も下唇も自分の口で覆うように味わった。
さらに舌を入れて口の中を吸う。
「んっ......光一......」
葵は、手を俺の両肩に置いて、苦しそうにあえいだ。
「ごめん。止められなくて」
葵をぎゅっと抱きしめた。
「ずっとこうしてたい」
そう言いながら、首筋と耳にキスをした。
耳にくちびるが触れると葵は
「あっ」
と声を上げて肩をすくめた。
その声と仕草が可愛すぎて、俺は興奮した。
彼女の首筋からはあまくて良い匂いがする。
足の上に乗っている彼女の尻も背中もウデも、ぜんぶが柔らかい。
触りたくてたまらなくなる。
(だめだよな。こんなふうにしてたら、止められなくなる)
葵の頭をゆっくりとなでると言った。
「ありがとう。元気出た。
もう暗くなってくるし、家まで送るね」
葵は、俺の両肩に手をおいたまま
「うん......」
と小さな声で返事をした。
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母さんのいる拘置所へと面会に行った。
話したいことがいっぱいあったはずなのに。
母さんの顔を見ると、頭の中が真っ白になってなにも言葉が出なくなった。
母さんも、何も言わずに俺のことを見ている。
ふたりとも無言で、アクリル板を挟んで何分間も見つめ合った。
母さんと俺が親子でいられたのは、わずか10年間だった。
俺が10歳から20歳まで、母さんとは、離ればなれだった。
離れていたどころか、俺は記憶を失って母さんの顔さえ覚えていなかったんだ。
思い出もすべて失っていた。
ようやく全てを取り戻せたと思ったら......またお別れだなんて。
空白の10年を、今からでも埋めたかったのに、それはもう叶わないのか。
「最近、小さい頃のことが夢に出てくるんだ。
母さんが読んでくれた絵本のこととか」
俺の言葉を聞くと母さんはアクリル板の向こうでニッコリと微笑んだ。
「もっと一緒にいたかった」
母さんはアクリル板に手の平を当てた。
俺も母さんの手の平に自分の手の平を合わせた。
「小さなお手々だったのに。こんなに大きくなったんだね」
母さんは、涙を流しながら言った。
「母さんは離れていても、いつも光一のことを考えてる。
たとえ......死んでしまっても」
そう言った。
「母さん、また来るよ。すぐに来るからね」
面会時間が終わって帰り際、俺は母さんにそう約束した。
その3日後。
病状が急変して、警察の病院で母さんは亡くなったのだった。




