第201話_すごい好き
「光一、お母さんに会ってあげてほしい。
きっと喜ぶ」
「うん。会いに行くよ......母さんに話したいこと、たくさんあるんだ」
父さんは寂しそうな笑顔を俺に向けると
「身体に気をつけるんだぞ」
そう言って、俺の頭をクシャクシャと撫でた。
そして俺の前から去っていった。
俺は父さんがいなくなったあとも、しばらく呆然としてなにも考えられなかった。
まさか母さんが病気になっていたなんて。
しかも余命が......半年?
理解が追いつかなかった。
母さんは、重い病気だった。
それなのに必死に葵の別荘まで、俺に会いに来てくれたんだ。
そんな母さんにむかって俺は
「帰ってくれないかな」
と言って母さんを拒絶し、追い返した。
母さんは俺を抱きしめようとして両手を伸ばしたのに、それを拒否したんだ。
ジムのベンチに座り込む。
葵が俺の肩に手を置いたのに気づいた。
「光一......なんて言ったらいいか......」
「葵、ごめんね。家族のことに巻き込んでる」
「いいんだよ」
葵が小さな声で言う。
俺は自分の肩に置かれた葵の手の上に自分の手を重ねた。
「光一、元気を出すんだ」
「ハハハ。さっきは優香のことで、俺が葵を励ましてたのになぁ」
いつのまに涙が流れていることに気づいた。
目から涙がどんどん溢れてくる。
「......っ」
思わず、自分の目を押さえた。
「どうした?光一......」
葵が俺の顔をのぞき込もうとする。
俺はあわてて涙をふくと顔をそむけた。
「みないで」
「......」
俺が泣いてることに気づいたのか、葵は顔をのぞき込むのを止めて黙りこんだ。
「もう20歳過ぎたのに、母さんのことで泣くなんて情けないけど。
でも、会えたと思ったら、こんなことになってショックなんだ。
刑務所から出てきたら、いっしょに暮らせるかも......なんて思ってたから......」
また涙がこぼれ落ちる。
涙はズボンに落ちて、シミを作った。
いい加減、このズボン洗いたいなぁ.......ぼんやりそんなことを思ったとき。
「情けなくなんか無い。思い切り泣けばいい」
葵がそう言いながら、ベンチに座る俺に、後ろから抱きついてきた。
「葵......こっちにきて」
俺は葵の腕を引っ張って、自分の正面に引き寄せた。
「抱きしめさせて」
葵の両脇に手をさしいれて、彼女を持ち上げる。
「あっ」
葵はびっくりしたのか、小さな声を上げた。
彼女を持ち上げると、ベンチに座る自分の太ももの上に彼女を横座りさせた。
そしてぎゅっと抱きしめる。
葵も俺の首に腕をまわしてくれた。
きれいな髪をなでて、彼女の香りを感じると気持ちが落ち着いてくる。
頬にそっとキスをした。
「時間がない。後回しにはできない。
俺は、明日にでも母さんに会いに行く」
「そのほうがいい」
葵も小さな声で同意した。
「葵......すごい好き」
何度も言ってるセリフを、ついまた口走ってしまう。
すごい好き......幼稚なセリフかもしれない。
でも「愛してる」なんかより、自分の気持ちをストレートに表している気がする。
「すごい好き」
もう一回そう言うと、彼女のあごに触れて顔を俺のほうに向けさせる。
そしてゆっくりとキスをした。




