第200話_父親が消えた理由
そうだった。
母さんに、「お父さんに電話しなさい」と言われた。
それで父さんの携帯番号が書かれた紙を渡されたんじゃなかったっけ。
紙はどこだ?
あった!!
地震のせいで、水道が止まって、洗濯ができなかったおかげでメモは尻ポケットで生き残っていた。
もしも洗濯していたら粉々になっていただろう。
「葵......ありがとう。
電話のこと、思い出してくれて」
思わず彼女の両肩をガシッとつかんだ。
そうだ。
さっきまでキスの一歩手前だったんだ。
彼女のふわふわのくちびるが目の前にある。
かわいい。
葵にキスしたい。
でもキスしたら止められなくなるかな。
でもキスしたい。
でもキスしたら止められなくなるし。
俺は、葵のほうに身をかがめようとした。
でも葵は、携帯番号の書かれたメモ用紙を俺に突きつけると言った。
「今すぐ電話するんだ!
あと回しにすると、光一はまた忘れてしまう」
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父さんに電話した。
父さんは、驚いたことに、すぐに俺に会いに来るって言ってくれた。
「お父さんが来るんだね?あたしは帰るね」
葵が椅子から立ち上がって、帰ろうとしはじめた。
彼女の手を掴んで引き止める。
「いてほしい。
父さんに俺の彼女だって、紹介したい。
葵さえよければ......だけど」
「えっ......でも、あたしがいたら、邪魔にならないかな」
「いて欲しい。話を聞いていて欲しい。
俺はすぐに忘れるから」
「......うん、いいよ」
葵は小さくコクリとうなずいた。
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「光一!!」
「父さん.......」
久々に見た父さんは、痩せてやつれていた。
でも俺の顔を見るとパッと笑顔になった。
俺の頭をクシャクシャと撫で回す。
「やめろって。もう子どもじゃないんだから」
「そちらのお嬢さんは」
「桜沢葵です」
「俺の彼女だよ」
葵を紹介すると、父さんは嬉しそうに笑った。
「はじめまして、桜沢葵さん」
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「悪かった、光一。突然、姿を消したりして」
父さんは頭を下げた。
土下座する勢いだった。
「いいって。
なんかワケがあったんだろ」
「お母さんには会ったんだよな」
「うん。会ったよ。
でも父さんが姿を消した理由は教えてくれなかった」
葵の別荘で、父さんが姿を消した理由を問いただすと、母さんは
「ごめんなさい。
理由は言えない」
そう言っていた。
「父さんは、母さんのもとへ戻ったんだよな?」
俺がそう言うと、父さんはうなずいた。
「母さんとは一生涯、もう二度と会うつもりはなかった。
大事な人だったけど。
でも、どうしても、戻る必要があったんだ......あのときは......」
葵はずっと黙って、俺と父さんのやり取りを見ていた。
「お母さんは病に冒されてる。
余命はあと半年もないんだ.......」
「えっ!?......そんな」
父さんの言葉に息を呑む。
母さんが余命半年?
そんなバカな。
「母さんは、そんなこと一言もいってくれなかった」
俺はショックを受けて、声が震えた。
「光一を悲しませたくなかったんだろう。
お父さんはお母さんから連絡を受けたんだ。
自分の命がもう長くはないと、彼女は言っていた。
それを聞いて、いても立ってもいられなくって、お父さんは、お母さんの元へ戻ったんだ」
そう......だったのか。
「どうして、いつも俺に話してくれないんだよ?」
俺は父親に詰め寄った。
「圭一から俺を引き離すために離婚したことも。
母さんの病気のことも。
ぜんぶもっと、早くに知りたかった!」
「光一、ごめん。言えなかったんだ。
光一を悲しませたくなかった。これ以上お前を傷つけたくなかったんだ」
「母さんは......圭一をこ、殺した......」
「そうだな。拘置所で面会してきたよ」
「母さんは牢屋の中で死んでしまう.....?」
握りしめた拳が震えた。




