第20話_【豆治郎】無限ポータルをひらくために
俺は石井豆治郎。
この世界の人間ではない。
1111H-Dから来た。
俺の生まれた世界、1111H-Dは、核戦争で荒廃した土地が広がっている。
動植物は希少。
人々は合成されたサプリメントで生きながらえている。
俺は世界線の移動に1114ポータルを使った。
そのあと1143を経由した。
ポータルは一方通行のものもあれば、別世界への経由を意味するものもある。
この辺はほんとうにややこしくて、かなり知識を積まないと理解は難しいだろう。
すでに1114ポータルは閉じている。
俺はもう通常ルートで、故郷には帰れない。
故郷においてきた妹のことが気になる。
腹をすかせて飢えているに違いない。
妹よ。
待ってろよ。
兄ちゃんがお前に腹いっぱい食べさせてやるからな。
1143で、すべてのポータルを開く能力を持つという「樫谷光一」に俺は近づいた。
そいつの部下になりすました。
樫谷光一は、般若のお面をかぶって、1142H-Aの「自分」に会いに行った。
不幸のどん底に落ちそうになっている「自分」を救うためだって。
笑わせる。
俺はあいつの気持ちがサッパリ理解できない。
別世界の自分なんて、別にどうなってもいいだろって思うけど。
でも好都合だ。
俺は喉から手が出るほど1142H-Aを求めていた。
樫谷光一の部下として、一緒にポータルを通って1142H-Aに来た。
ついに!!
幻の1142H-Aにとうとう、俺は到達したのだ。
文明が遅れているが、資源が豊富、食料も豊富にあるという1142H-A。
ここに到達するのは、かなり難易度が高い。
ポータル間の移動が、非常に複雑なのだ。
1142H-Aは、世界線の移動ができる「トラベラー」たちの憧れの世界。
そして暗黒の分岐を目指す、俺のような「ワーム」にとっても......。
般若のお面を被った樫谷光一に気づかれないように、俺はひっそりと1142H-Aに残った。
驚いた。
たしかに世界はモノであふれ、空気は澄んでいる。
肉のうまいこと。水の美味しいこと。涙が出る。
俺は幼い頃、トラベラーである祖父から1142H-Aのことを聞かされ、夢見てきた。
いつの日か、この1142を暗黒の分岐に導いて、無限ポータルをひらく。
それが俺の夢だ。
世界線の移動に耐えられる人間は各世界にわずか4000人ほどしかいない。
移動できるのは、なぜか日本人に多い。
その理由は未だ解明されていない。
普通の人間は、世界線を移動するとDNAに深刻な損傷を起こし速やかに死に至る。
だが無限ポータルが開けば、だれでも世界線の移動が可能になる。
1142を暗黒の分岐に導き、最優先で1111への無限ポータルを開く。
そして故郷の妹を1142に呼び寄せるんだ。
飢えた俺の故郷の住人たちも、ここに押し寄せるだろう。
彼らはこの世界の資源をきっと存分に味わい尽くすに違いない。
そのためにすべきことは、もう分かっている。
暗黒の分岐への「キーマン」となる山口優香。
彼女の運命をめちゃくちゃにすればいいのだ。




