第197話_【優香】自分がしでかしたこと
「今回の震災での死者数は......行方不明者数は......人で......」
家族で朝ご飯を食べていた。
リビングのテレビでは、今回の震災についてのニュースが流されていた。
あたしは思わず、チャンネルを変えた。
でも変えた先のチャンネルも震災のニュースだった。
住む家を失った老人が
「思い出の家が壊れてしまった。
どこに行けば良いんだかわからない」
インタビューを受けて、そう答えている場面だった。
あたしは、朝食の途中だったけど
「もういらない」
と言って、食卓を立つと逃げるようにリビングから出だ。
自分の部屋に入ると、布団をかぶる。
ぜんぶ、自分がしでかしたことだ。
あたしが悪いんだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい......」
何度も何度もつぶやいた。
亡くなった人たちも、家を失った人たちも......
どんなに謝ったってきっと許してはくれない。
謝って済む問題じゃない。
涙が流れ出る。
とんでもないことになってしまった。
それなのに、未だあたしは、まめくんのことが好き。
好きでたまらない。
どうして、こんなに自分勝手なんだろう。
「ごめんなさい、ごめんなさい......」
机の上に置いてあるカッターナイフに目をやる。
死んで済む話じゃない。
それでも......。
あたしは震える手でカッターナイフを握りしめた。
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「優香!!優香......」
まめくんの声がする。
優しい声。
あたしの大好きな声。
あたしのことをジッと見つめる目。
やさしく、抱きしめてくれる大きな手。
困ると上目づかいになって、かわいい。
まめくん......会いたいよ......。
「優香......」
「う......ん......」
目を覚ます。
自分の部屋じゃない。
ここは......
視線を動かす。
点滴の器具や、枕元にはなにかの機械。
ここは病院?
そうか......。あたしは手首をカッターナイフで切った。
でも死ねなかったんだ。
「優香......どうしてこんなこと......」
「まめくん」
あたしのベッドの脇には、まめくんがいて涙を流していた。
あたしは、まめくんが泣いているのを始めてみた。
「まめくん......。泣かないで」
手を伸ばして彼の頬に触れる。
「まめくん。どうして、ここに......?どうやって......来たの?」
「優香のお母さんが、知らせてくれたんだよ。
うわ言で優香が俺の名前を呼んでるって。
優香のスマホから、俺に電話くれたんだ」
「あたしのスマホ......」
「優香、どうしてこんなことを。
優香。お願いだ。優香がいなくなったら俺は......」
まめくんの頬をいくつもの涙が流れ落ちる。
「まめくんを悲しませるつもりじゃなかったの。
でも自分のしでかしたことを思うと、もう耐えられなくって」
「優香......」
まめくんはあたしの手をそっとにぎった。
その手は震えている。
そのとき、ベッドを囲っているクリーム色のカーテンがシャッと開いた。
「誰......?」
カーテンが開いた先に視線をむけると、そこには老婆が立っていた。
浴衣のような着物に、真っ白な髪。
ふくよかな身体。
面白がっているような、怒っているような、なんとも言えない表情。
そこに立っているのは、羅針盤。
羅針盤の津江さんだった。
「津江さん!?」
あたしとまめくんは、同時に声を上げた。
「おうよ。暗黒の分岐の鍵に伝えることがあってきた」
津江さんは低い声でそう言った。




