第196話_優香と豆次郎の帰還
スマホが、けたたましく鳴っている。
「うーん。なんだよ......」
寝ぼけたままタップすると、葵の声が聞こえてきた。
「光一、起きろ!」
「あお......?あおい、すごい好き......」
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「光一......寝てたな?」
「ん......。いま何時」
ねぼけまなこで、スマホの時計を確かめると、もう10時過ぎだった。
「あぁ~寝坊した。でも地震のせいでバイトも無いからさぁ」
ベッドから立ち上がると、スマホを耳に当てたまま寝床の小部屋から出た。
ミニキッチンのウォーターサーバーの水を汲む。
水は冷たい。
ありがたいことに昨日くらいから電気がとおるようになったのだ。
水道水も復旧が間もなくだと聞いている。
日常が戻りつつあった。
「葵、会いたいな。今日あえる?」
「大至急、ウチに来るんだ!」
「えっ、葵の家?......いいけど」
「さっき、山口先輩から電話があったんだ。
豆治郎くんといっしょに、この世界線に戻ってきたらしい。
二人ともウチの道場に来ることになってるんだ」
葵の話を聞いて、一気に目がさめる。
「まじか!?俺も行く!!」
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葵の屋敷の「道場」に俺たちは集合した。
圭一に傷つけられて生死をさまよった豆次郎は、すっかり元気になって戻ってきた。
「豆次郎!!」
俺はやつの顔をみたとたん、嬉しくて思わず駆け寄って抱きつこうとした。
「やめろ」
豆次郎は、俺のハグを華麗に避けた。
「光一に抱きつかれたら、骨がバラバラに砕け散る」
「アハハハ。いつもの豆次郎だ。よかった」
豆次郎の背中をバーンと叩く。
「......った。傷が開いたらどうしてくれる」
豆次郎は俺の頭を軽く叩いた。
優香は黙り込んだままだった。
「山口先輩......」
「分かってる。あたしは大変なことをしてしまった」
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「山口先輩、しかたなかったんだ。
先輩がわざと地震を起こしたわけじゃないんだし」
葵が優香を励ます。
俺たちは道場の畳にすわりこんで話した。
天気の良い日で、道場の引き戸は開け放たれていた。
ぽかぽかと日差しが差し込み、庭園からは小鳥のさえずりが聞こえてくる。
「優香。
一番悪いのは圭一なんだ。
あいつが豆次郎を傷つけた。
そのことが一番悪いに決まってる」
俺は、優香にそう言ってみた。
だけど優香は黙ったまま首を横に振った。
「ほんとは、般若の世界からここに戻ってきたくなかった......」
優香はポツリとそんなことをつぶやいた。
「優香......」
豆次郎はそっと優香の手を取った。
「でも、やっぱり気になって仕方なかった。
この世界のことが、心配で心配で。
どうなってるのか。大丈夫なのか、気になって、ずっと眠れなかった。
何もかも忘れて、まめくんと二人きり、1143H-Cで暮らそうかとも思ったけど」
「山口先輩......」
葵が優香の肩をさする。
「うん.....。
何もかも忘れるなんて出来なかった。
だって、葵も、光一も、それにあたしの家族、友だち。
大切な人たちがこの世界に暮らしているんだもん。
忘れたりなんか出来なかった」
「優香、まだ暗黒の分岐には進んでない。
悠人が言ってた。まだ全然間に合う」
俺は優香を励ました。
「そうだよ。もう電気も通るようになったし、水道もまもなくだ。
山口先輩、大丈夫だ。世界は平和だよ」
「うん......」
優香は小さくうなずくと虚ろな目で、庭園を眺めていた。




