第193話_永遠の本探し
翌朝。
街角でボランティアが配っているパンをもらって食べた。
トイレが一番の困りどころだった。
非常用のトイレが設置されていたがすごく混んでいた。
食事、排泄......。
人間が最低限必要なことを、苦労して済ませる。
いままでの日常がどんなに贅沢だったのか、思い知った。
(このまま暗黒の分岐に進まずに、もとの日常に戻れると良いんだけど。
豆次郎と優香はどうしてるだろう。
豆次郎の回復には、3日間くらいはかかるって、般若が言ってた)
味のしないパンを食べ終わると俺は「古本屋」へと向かった。
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古本屋に到着した。
ガラスの引き戸を開けて店内に入る。
(うわ!!これはひどい)
店内の様子をみて俺は絶句した。
メチャクチャだった。
床は本で埋め尽くされていて足の踏み場もない状態。
棚に並べられていた本が、すべて雪崩のように床に落ちてしまったのだろう。
棚はきれいさっぱり空っぽになっていた。
もともと乱雑な雰囲気の店だったけど、これはひどすぎる。
「すみませーん」
声をかけたが返事がない。
店主の親父さんは留守......?
足元に落ちている文庫本を拾ってみた。
「赤い実のおはなし」
という本だった。
この散らばった本の中から「永遠のポータル」を探し出さなくては。
そしてもし見つかったら、10万円を置いていこう。
しゃがみこむと、一冊ずつ手にとって、永遠のポータルを探しはじめた。
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「あぁ~~~、ムリだ」
3時間後。
俺は音を上げた。
「そもそも、永遠のポータルが、この店には無いのかもしれないしな」
それでも葵との待ち合わせギリギリまで、あきらめず探そう。
足元の本をひろう。
「トリニティへの道」と言うタイトルの本だった。
くそ。
あと30分くらいで、店を出ないと待ち合わせに遅れる。
俺は床に散らばった本を、重ならないように並べて、タイトルが見えるようにした。
そしてザッと眺める。
大量の文字を読むと、頭が痛くなってくる。
それでも頭痛をこらえて、本のタイトルをひとつひとつさがした。
「永遠の」という文字をみつける。
「やった!!ゲットか?」
本を拾い上げ、タイトルを凝視する。
本には
「永遠のたいやき」
と書かれていた。
なんだよっ。
思わずしゃがみこんでため息を付く。
腕時計をみるとあと、2分しか無かった。
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葵との待ち合わせ場所に到着すると、すでに葵が待っていた。
「ごめん。待たせた?」
「ううん。いま来たところだ」
ふたりで街なかをノロノロと歩く。
カフェもショッピングモールも、カラオケ屋だって全部閉まってる。
デートできる場所なんか無かった。
「光一!大丈夫か。顔色が悪いぞ」
葵が俺の顔をのぞき込む。
「あぁ~、ちょっと頭痛がして」
「食べるものはあるのか。
トイレとか水は大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。
ウォーターサーバーの水があるし、ボランティアの人がパンをくれるし。
トイレは病院前に、仮設トイレができてる。
スマホの電池は切れそうだけど」
「スマホの電池が?
それじゃ、連絡が取れなくなるじゃないか」
「うーん。そうだね......」
「あたしが持ってる非常用バッテリーをあげるよ。
電池で充電できるんだ。
しばらくもつはずだ」
葵はそういうと俺の手にバッテリーを押し付けた。
「えっ。そんな、もらえないよ」
今日は葵の誕生日なのに、俺のほうが何かをもらうなんて、できなかった。
俺はおもわず、バッテリーを葵のほうへと押し返した。
「......っ」
葵はバッテリーを押し返されて、傷ついたような顔をした。
「なんだよ!いらないなら、もういい!」
葵は怒ったような声を出して、バッテリーをカバンに戻した。
「あたしと連絡が取れなくても良いってことだな?」
「ちがうよ。そんなことない。
いつも葵にもらってばっかりだから。
だから、その......」
思わず口ごもった。
自転車も買ってもらったし、大学の学費も出してもらった。
葵にはいつも、もらってばかりだ。
だから......誕生日くらいは葵の好きなものを用意したかったのに。
俺がバカだからだ。
俺が何でもすぐに忘れるから。
バイトをがんばったおかげで、口座には15万くらいの貯金があった。
だから、通販で本を購入できたはずだった。
売り切れる前にきちんと、買えばよかったんだ。
それなのに、俺は「忘れた」んだ。
忘れたせいで、本は売り切れてしまったんだ。
「葵......ごめん」
俺は葵の手を握ろうと思って、手に触れた。
でも彼女は、その手を振り払った。
「昨日もなかなか連絡くれなかった。
すごく心配したのに」
葵が俺を見上げる。
その目は、少し潤んでいた。
「ごめんって。怒らないで。
せっかく会えたのに」




