第191話_マルチポータル管理者
(故郷に帰りたい?俺にポータルを開けて欲しいってことか)
ドアを開けて話を聞いてみるか......。
強盗じゃないなら、危険はないだろうと思いドアノブに手をかけた。
ジムの外は短い廊下になっていて、突き当りにエレベーターと脇に非常階段がある。
ジムの出入口の扉をガチャっと開いて、俺はあまりのことに唖然とした。
短い廊下いっぱいに、人がみっちりと集まっていたのだ。
ざっとみて、20人くらいはいそうだった。
「えっと......?みなさん、トラベラー?」
俺は、戸惑いながらも廊下に立つ人々に声をかけた。
「はい」
「......そうです」
「お願いします。故郷に帰りたい」
口々にそんな事を言ったり、無言でうなずいている人もいた。
「こんなに大勢いるなんて。一体なにが起きてるんだ」
俺が戸惑っていると、先頭に立っていた男が言った。
「1142H-Aは暗黒の分岐に入ったって噂でもちきりです。
ここから脱出したい。
だけど、いつものポータル管理者がこの世から消えたって聞いて......」
(いつものポータル管理者......この世から消えた......)
それは圭一のことで間違いないだろう。
「まだ完全に、暗黒の分岐に入っていない。
この世界はまだ崩壊してない」
そう言ってみた。
「でも入りかけているんでしょう?
早く逃げないと、戦争に巻き込まれる。
暗黒の分岐に進んだなら、日本だけじゃなく世界的に崩壊するはずだ。
それに無限ポータルが開いてしまう。
他の世界線からいろんなヤツらが押し寄せてきて、きっと大混乱になる」
若い男が震えながらそう言った。
「う~ん。困ったな」
俺は考え込んだ。
「俺は、ポータルをあけることは出来るけど........
それぞれの世界線につながる座標の計算はやったことないし、できない」
「あぁ!座標なら羅針盤に教えてもらってます。
明日の12時まで有効な座標なので、時間が過ぎたら無効になるんだけど」
男が、紙切れを俺に見せた。
「座標がわかってるなら......」
そのとき、背後のエレベーターがパッと開いた。
「蛭間さん!!」
エレベーターから降りてきたのは蛭間さんだった。
「光一!やっと戻ってきたのね。心配したのよ。
この大勢の人たちはなんなの?」
「この人たち、みんなトラベラーで故郷に帰りたいっていうんだけど」
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蛭間さんは、トラベラーたちをテキパキとさばきはじめた。
彼女はトラベラーたちを一列に並べると、ポータルをあけるべき座標と時間を整理して紙に書いてくれた。
「だけど、ここから遠い世界線だと、いくつもポータルをくぐらないといけない。
全員を、俺が故郷まで連れて行くのは大変だなぁ」
恐る恐る、蛭間さんに聞いてみた。
悠人を故郷につれ帰るときだって、かなり苦労した。
目玉の飛び出た化け物の世界や、核戦争後の世界だって通らなきゃいけないかもしれない。
「トラベラー通信でみたわよ。
光一は、もうマルチポータル管理者になったんでしょう。
だったら座標さえわかれば、直通ポータルを開けられる」
「んっ?」
トラベラー通信とかいう連絡網があるのか?
それにマルチポータル管理者ってなんだ?
ワケがわからず首をひねる。
「分かってないのね。とにかく、いくつもの世界線を通り抜ける必要はないのよ」
蛭間さんのサポートで俺は、あちこちにポータルをあけるとトラベラーたちを故郷に送り返した。
ポータルをあける場所は、都内のあちこち。
廃工場や図書館の壁、はたまたビルの屋上の給水塔だったり、さまざまだった。
なにしろ22人いたので、その作業は深夜まで及んだ。
「ようやく最後の一人だ」
「ありがとう!!恩に着る。
暗黒の分岐に進まないことが分かったらきっとまた来ると思う。
この世界が気に入ってたんだ」
中年の男はそういうと、雑居ビルの階段の踊り場の壁から消えていった。
「終わったわね、光一」
後ろで見守っていた蛭間さんが俺の肩に手を置く。
「ジムに帰ってシャワーを浴びて寝ます......疲れた~」
思わずボヤいた。
あちこち歩き回ってヘトヘトだった。
「やったわよ。この数時間で200万稼いだ」
蛭間さんはいつのまにトラベラーたちから集めたのか、紙袋に入った金を俺に見せた。
「えっ!?みんなからお金取ってたんですか!?そんな」
驚いた。
「あたりまえでしょう。無料でやるわけがない。
光一には、そうね......10万円あげる」
蛭間さんは札束を俺に押し付けた。




