第186話_懺悔
「どうして母さんが、ここに!?」
悠人のほうをチラッと見る。
悠人は平然とした顔で、俺を見つめ返した。
......そうか。
悠人が母さんをここに呼んだんだな。
でも、どうして?なぜ呼んだんだ?
「なにをやってるの!?」
母さんは、俺と圭一を見て叫んだ。
「母さん......。光一が俺をイジメるんだよ......」
圭一は弱々しい声で母親に呼びかけた。
圭一は体の力を抜き、ぐったりとしている。
まるで俺に殴られ続けたかのように。
そうだ。
こいつは、昔から被害者ぶるのがうまかった。
「光一!圭一を離しなさい」
母親が厳しい声で俺に言う。
「いやだ!こいつを殺すんだ」
俺は、ナイフを圭一に向けた。
手が震える。
「そんなことしたら、許さない!
圭一から離れるのよ。言うことを聞きなさい!」
母さんは俺を激しく叱った。
「母さん......。悪いのは圭一なんだ。
俺の親友を傷つけた。葵のことだって」
俺は圭一に視線を向けたまま、母さんに必死で訴える。
「だまりなさい!」
母さんは、俺たちのほうへズカズカと近づいてきた。
母さんが俺の肩を乱暴に押す。
「はやく、圭一の上から降りなさい!」
「でも」
「はやく!!」
母親に怒鳴られた、
俺はすっかり怯えた10歳の子どもにもどってしまい、圭一の上から渋々降りた。
ニヤリとこちらをみて笑う圭一の顔が視界の隅にうつる。
母さんは俺を押しのけると、圭一の顔にそっとふれた。
「圭一......。大丈夫?」
優しい声をかける。
「うん、まぁ。
ちょっと喧嘩してただけだよ」
母さんはやっぱり俺のことなんか愛してないんだな。
分かってはいたけど、胸が苦しくなる。
いまさら、母親の愛がほしいなんて......馬鹿げてるけど。
母さんは圭一の腕をひっぱった。
圭一は腕を引っ張られて、ゆっくりと上半身を起こす。
母さんは、しゃがみこんで、圭一を抱きしめた。
そして背中を優しくさすっている。
「あたしの大事な圭一......大事な、大事な......」
「ぐっ......ふっ!?」
圭一が変な声を出した。
「!?」
圭一は口から血をながして、目を見開いている。
「か、母さん......?なに......したの......?」
圭一が母さんの顔を見る。
「圭一......母さんを許して......」
母さんの手には、包丁が握られていた。
肩から下げているショルダーバッグから、いつの間に取り出したのだろうか。
「許して」
圭一を抱きしめたまま、震える声で言うと、さらに包丁を圭一の胸に突き刺した。
「あぁあああ」
母さんは叫んだ。
「っ.......ぐふっうっ」
口から血を吐き、圭一は目を見開いたまま、息絶えた。
自分が死ぬことが信じられない......そんな表情だった。
圭一が死んだ!?
........母さんが殺した!?
目の前の出来事が信じられなかった。
あっという間すぎて。
何が起きたのか理解するまでに時間がかかった。
「あぁああっ......うっ、うっ」
母さんが狂ったような叫び声を上げた。
「母さん......!!」
俺は母さんに駆け寄った。
母さんは、そっと圭一を畳に寝かせた。
指で圭一の目を閉じる。
そして俺のことを見上げた。
「光一......!お前に兄さんを殺させる訳にはいかないよ。
もっと早く、母さんがこうすべきだったよね........あぁぁ
母さんが全部悪い......あぁあ」
そう言うと、立ち上がって俺のことをギュッと抱きしめた。
「光一.......ううぅっ」
母さんは嗚咽を漏らし激しく泣き出した。
「母さん......母さん」
俺も母さんを抱きしめた。
そのとき葵が部屋の隅から、俺に震える声で呼びかけた。
「光一っ。......豆治郎くんと山口先輩を、助けないと。
はやく......っ。はやくしないと」
俺は葵に向かって勢いよくうなずいた。
母さんからそっと離れるとポッカリと空いたポータルに駆け寄った。




