第183話_【葵】悲劇が起きる
悠人に手を引っ張られて、銀座の街を歩いた。
「悠人、どこにむかってる?」
「有楽町駅だよ。そこから電車に乗って大宮に向かう」
「大宮!?埼玉県の?そこに光一がいるのか?」
悠人はコクリとうなずいた。
「光一は豆次郎とともに、圭一に捕らえられている」
「豆次郎くんと一緒に!?そうなのか.....」
あたしはスマホをカバンから取り出した。
「山口先輩に連絡しないと」
「山口優香か。彼女も来るとすると......」
悠人がふいに足を止めて考え込む。
「なに、まずいの?」
悠人に恐る恐るたずねた。
山口先輩が来ると、運命が狂うのかもしれない。
悠人は頭を抱えこむと下を向いた。
「山口優香......彼女が関わった場合......」
「悠人、どうした?」
あたしは戸惑う。
羅針盤がこんなふうに迷いを見せることはありえないはずだった。
「ごめん。僕の能力はまだ完全じゃないんだ。
だから間違うことも多い......。いいよ、優香も呼べばいい。
どうにかなるだろ」
悠人がやや投げやりな口調でいった。
電話すると、山口先輩もすぐに大宮に向かうということだった。
「どうやって、光一と豆次郎君を助け出す?
警察を呼ぼうか?」
「警察を呼んだ場合......。
いったんは危険が回避されるが、後日また圭一は光一を襲う。
結局は同じことが繰り返される」
「そんな......。じゃあどうすれば」
有楽町駅について、JRの改札を抜ける。
昼間なのに人でごった返していた。
「もうすでに手は打ってある。
圭一を止める方法はこれしかないんだ。
つらい悲劇が起きるけど、覚悟して欲しい」
「えっ......。どういうこと」
あたしの言葉は、ホームに入ってきた電車案内のアナウンスにかき消された。
悲劇が起きる?
電車の中で、悠人にどういうことなのか、何度も聞いた。
だけど彼は黙り込んで、教えてはくれなかった。
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【光一】_大宮のアパート
「決めた。
お前を殺すシーンを動画に撮る。
それを葵ちゃんにみせよう。
葵ちゃんは絶望しながら、俺に首を絞められ死んでいくんだ」
「そんなことさせるか!」
殴られ続けて腫れ上がった目で、俺は圭一を睨んだ。
「お前には、親友が苦しんで死ぬところを見届けてもらおうか」
「俺を殺せ。
それで終わりにすればいいじゃないか。
どうしてそんなに俺を苦しめたいんだ」
「俺はお前とはんぶんこが嫌なんだ。
小さい頃は母親の愛を独り占めしたかった。
いまは、ポータルの力を独り占めしたい。
それになにより、お前が幸せなのが許せないし、お前をイジメるのが楽しいんだ」
「狂ってる」
俺はペッと口から血を吐いた。
そのとき、圭一の手下の一人が、スマホを手に近づいてきた。
「外をウロウロしている子どもと女がいる」
「こいつらなんだが......」
男はスマホを圭一に見せている。
「おっと!葵ちゃんじゃないか。
それに暗黒の分岐の鍵の女......次期・羅針盤までいるなぁ」
圭一は俺の顔を見ながら言った。
「まさか葵ちゃんがここに来るとは。
光一が死ぬところを生で見せることが出来るね。
うれしいねえ」
「.....悠人がきたんだな。
悠人は未来が読める。
お前はもう終わりだ!悠人には叶わない」
「どうかな。
あの少年はまだ羅針盤じゃないだろ。
こないだ、マンダラ研修施設で、あの少年には悔しい思いをさせられた。
あのときの仕返しが出来るな。
3人とも拘束して、ここにつれてこい。
女はふたりとも武道の心得がある。
少年も手強いぞ。気をつけろ......」
俺はギュッと目をつぶった。
悠人......。
頼む、葵を守ってくれ。
俺のことはいいから、葵と一緒に逃げるんだ。
この悪魔は狂っている。
だから、何が起きるかわからない。
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だが俺の願いは届かなかった。
数分後。
葵、優香、それに悠人の3人は、縄に縛られて俺の目の前に座らされていた。
「羅針盤の悠人くん。
今日は未来が視えないのかなぁ。
こんなにあっさり捕まるなんて、なんだかちょっと怖いけど」
圭一がニヤニヤ笑う。
「せまいアパートだから、人が多すぎだなぁ。
はやく人を減らさないと!
まずはメガネの男から、減らしていくかぁ」
圭一は手下に目で合図すると、豆次郎を連れてこさせた。
「くそっ!はなせ」
「ハハハ。もっと大声だしてもだいじょうぶだぞ。
このアパートは取り壊し予定で誰も住んでない。
田舎だから周辺に民家もないしなぁ。誰にも声は届かない」
圭一は豆次郎を床に組み伏せた。
「っ」
豆次郎はもがく。
ナイフを振り上げると、豆次郎の小指に突き刺した。
「うわぁあああっ」
豆次郎が悲痛な声を上げ得る。
ナイフはそのまま、豆次郎の小指を切り取った。
さらに、圭一は豆次郎の腹を刺す。
「ぐふっ!!」
「やめろ!!圭一。殺してやる」
俺は叫んだ。
「いやぁっ!!!まめくん!!いやだ!!」
優香も叫ぶ。
豆次郎は血を吐きながら言った。
「ゆ......優香......。俺は幸せだった
嘘ついて......ごめん」
「いやだ!!まめくん.......お願い」
優香は涙をボロボロ流しながら震える声で豆次郎に呼びかけていた。




