第182話_【葵】すべてお見通し
「5億......」
津江さんは笑った。
「ホーッホッホ」
「いまは、5億払うという口約束しか出来ない。
でも必ずあたしがお金を支払うことは、津江さんなら分かるよね?」
津江さんの目には、あたしが5億支払う未来が視えているはずだった。
「早く。光一の居場所を教えて!!」
あたしはソファから立ち上がると叫んだ。
「金はいらん。たとえ10億積まれてもな。
ワシはあと8か月で死ぬ。
そんなに金をもらっても使い切れんからな。さあ、帰れ」
「そ、そんな......」
あたしは拳を握りしめた。
このババァを殴り倒して、光一の居場所を吐かせるか......?
「あたしを殴ったりしたら、ジョージの懐のナイフが飛ぶよ。
ジョージはロシア出身の傭兵でナイフ使いだ」
津江さんの右側にいる白人男が懐に手を入れていた。
「お前がジョージに勝てる確率は0.001%もない」
「くそっ。津江さんのわからず屋!!」
あたしは叫ぶと、部屋から出ていった。
津江さんの部屋の玄関から飛び出す。
薄暗いホテルのような内廊下で、あたしは呆然とたちつくした。
光一、どこにいるんだ?
ちくしょう!
どうしたらいいんだ。
あたしの頬から涙が流れ出る。
光一、お願いだ。無事でいて。
つい最近も、光一は悠人を連れてポータルに飛び込んだ。
いくつもの世界線を移動したのだ。
あのときも、光一のことが心配でたまらなかった。
あのときの繰り返しだ。
あたしと光一は、また離れ離れになってしまったんだ。
ポータルだのトラベラーだのに関わっているかぎり、こんなことが一生続くのか?
思わずため息が出る。
それでも大好きな人だから。
大事な大事な人だから。
あたしは、光一のことをあきらめない。
絶対に。
「行かないと。松井が何か情報をつかんでいるかも」
「......葵!」
そのときだった。
津江さんの部屋の隣の家の玄関が開いて、悠人が出てきたのだ。
「悠人!?」
あたしはびっくりして、思わず飛び上がった。
「部屋に閉じ込められていたんだけど、ベランダから出て隣の家に侵入したんだ。
隣の家の窓ガラスを植木鉢で割った」
「あぶないじゃないの」
あたしは悠人に怪我がないか確かめた。
「葵。行こう?光一を助けるんだよね。
光一のことは僕も大好きなんだよ?」
悠人がぎゅっとあたしの手を握って引っ張る。
「悠人......ほんとにありがとう。
でもいいの?津江さんに怒られるよ?」
悠人はあたしを見上げるとニヤリと笑った。
「あのクソババァは最初からこうなるのが分かっているんだ。
だから金も受け取らなかった。
僕がこうすることなんか、あのババァはお見通しだよ」




