第175話_豆次郎との会話
葵と駅で別れた。
ホームの向こう側。
葵の電車が先に来た。
俺は電車の中の葵にむかって、ずっと手を振り続けた。
彼女も小さく手を振っていた。
やがて葵の乗った電車が走り去る。
思わず、はぁ~っとため息がでた。
(今日も葵は、めちゃくちゃ可愛かった)
でもすこし元気がなかった気がする。
(葵は優香のことを心配してるんだ。
豆次郎がワームだから......)
葵の話を聞いても、豆次郎がワームだなんてピンとこなかった。
ワームってことは、この世界線の人間じゃないってことだよな。
豆次郎は俺の大事な友だちだ。
あいつは頭が良いから、相談すれば良い答えがいつももらえた。
レポートだって書いてもらったことがある。
うちのジムに来て、うどんを一緒に食べたこともあった。
筋トレを教えたこともあった。
やつは俺にとって大事な友だちなんだ。
あいつは嫌がるけど俺は親友だと思ってる。
もしも本当にワームなのだとしたら、きっと何か事情があるんだろう。
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「こんな遅くに呼び出して何だよ?」
豆次郎はメッセージを送ると、わりとすぐにジムに来てくれた。
「悪い。バイト終わって、帰ってきたのが今さっきなんだよ」
「明日じゃダメだったのか?」
「ダメなんだよ。早く解決しないと」
俺は、ベンチシートから立ち上がると豆次郎の肩をガシッとつかんだ。
「豆次郎は、ワームなのか?」
「.....っ」
豆次郎は目を見開いた。
「ちが......いや......。
それ誰に聞いた?」
一旦は、否定しそうだったけど豆次郎は首を横に振った。
「違うんだな」
「......くそ。いや、違わない」
「違わない?違うってこと?」
「違う。違わない」
「......って、おい!!どっちだよ」
俺はワケがわからなくなって叫んだ。
「俺はワームだ!!くそっ」
豆次郎が大声で叫んだ。
「くそっ。そうなのか」
俺も応じた。
「いつからバレてた?桜沢さんも知ってるのか?」
豆次郎が上目づかいで俺を見た。
「今日の夕方、葵から聞いたばっかだよ」
俺は白湯を飲んで気持ちを落ち着かせた。
豆次郎の口から聞いても、なんだか受け入れ難い。
「豆次郎は......この世界の人間じゃないのか。
大学生でもない?」
「俺は大学生じゃない。
あの大学には優香や光一に接触するために潜り込んだ。
出欠を取る授業や、座席指定のある授業には、俺はいなかっただろう」
「んー?そうだっけ」
俺は首を傾げた。
うかつにも、あまり気にしてなかった。
「俺はワームだ。
優香にもバレたし桜沢さんにも、光一にもバレた」
豆次郎は寂しそうな顔をした。
「姿を消さないとな」
「えっ、なんでだよ」
豆次郎の言葉にびっくりして聞き返す。
「だって、ワームだぞ。俺は、お前らの敵だ」
「待てよ。そもそも、どうして暗黒の分岐を目指したんだよ?
なんか理由があんだろ?」
俺が豆次郎の肩をもう一度、ガシッと掴むと豆次郎は目をそらした。
そして俺の腕を乱暴に振り払った。
「俺に構うな。俺は薄汚いワームなんだ」
「なんか......厨二病っぽいセリフだな。ちょっとかっこいいぞ」
「お前のそういうところ、いつも好きだったし癒やされたけど。
もう笑って済まされることじゃない。
俺は、この世界を壊そうとしてたんだよ?許せないだろ」
「うーん。まだ壊してないんだし......」
「とにかく!俺は消える!!」
豆次郎はそう叫ぶと、ジムからでて行ってしまった。
「あっ、豆次郎」
そのとき俺のスマホが鳴った。
「も、もしもし」
「......おそいぞ。なんで電話してこない」
葵の声だった。
「ごめん!いま、豆次郎と話してたんだけどさ」
スマホを耳に当てながら、ジムの外に出て、エレベータを見る。
豆次郎はもう、1階に降りて外に出てしまったようだった。




