第17話_ニセモノに無理やりキスされる
「ポータル?......なんだよ、それ」
のどにナイフを突きつけられているけど、あんまり怖くなかった。
なぜなら、相手の外見が「葵ちゃん」だからだ。
葵ちゃんは俺と二人きりのときはいつも乱暴してくるけど、俺に致命傷を追わせるようなことは決してしなかった。
なんだかんだ言って、葵ちゃんは手加減してくれる。
でも!!
こいつは本物の葵ちゃんじゃなかった。
だから今、俺はヤバい状態なのか?
......ってか、なんなんだ、この状況。
そもそも、どうして葵ちゃんに偽物がいるんだよ。
ややこしいじゃないか。
「お前はどうして、葵ちゃんにソックリなんだよ。
もしかして双子とか?」
「何度もいうが、わたしは平行世界1145H-Bという別世界からきた。
この世界と同じ人間が、そこで暮らしているのは知っているだろう。
だがBは、ここよりはるかに科学技術が進んでいる」
「えーと。同じ人間が暮らしてるってことは、俺と同じ顔のやつもいんのか?」
「いるだろう。死んでいる可能性もあるが。
少なくともあたしは、Bでお前とは出会っていない」
「う~ん。.......だめだな。やっぱりよく理解できない」
ニセ葵はとつぜん、姿勢を低くして重心を下げると、俺の足を払った。
俺はバランスを崩して尻もちをつく。
「いって」
尻もちをついた俺に、ニセ葵がのしかかってきた。
「理解できないとか言って馬鹿なふりして、芝居してもムダだぞ。
このナイフは脅しじゃない」
ニセ葵はナイフを素早くシュッと動かした。
腕にヒンヤリとした空気が流れたかと思うと、数秒おいて激しい痛みが襲った。
「.......っ!!」
見ると腕から血が流れている。
腕を切られた。
「なにすんだよ!くそっ!」
止血のために、腕の切り傷に手を当てた。
「俺はお前が嫌いだ。お前の見た目はスゲー好きだけど、お前の中身がマジで嫌いだ」
ニセ葵をにらみつける。
本物の葵ちゃんに乱暴されると俺は嬉しくなるけど、こいつに暴力を振るわれても、ちっとも嬉しくなかった。
「早く答えろ。ポータルはどこにある」
「だから、なんだよ、そのポータルって」
「早く言わないと、次はその可愛い顔を切る。
傷あとが残るように深くな。
1142H-Aポータルのアドミンであるお前を殺すことはできない。
だが半身不随にしたり、目玉を潰したり、醜い見た目に変えることは可能だ」
ニセ葵は、俺を床に押し倒すと馬乗りになって、頬にナイフをピッタリと当てる。
「も一回、聞くけどお前はどっから来たんだよ」
「言っただろう。1145H-Bからきた。1145ポータルを通ってな。
あたしが知りたいのは、お前が管理する1142ポータルの在りかだ」
「ちょっ......その数字の名前、ややこしくない?
チューリップポータルとか、ひまわりポータルとかさ。
そういう名前にできなかったの?」
流れ出る血を抑えながら、ニセ葵の顔を見た。
もうナイフで脅すのは止めてほしい、心底そう思った。
ニセ葵は、俺の言葉に笑いをこらえているようだった。
「お前......どこまで馬鹿なんだ」
「俺は馬鹿だよ。そのポータルとかいうものの場所も意味さえも分かんないし」
ニセ葵は、フッと笑うとナイフを俺の頬に押し付けたまま、顔を近づけてきた。
「......なんだよ」
ニセ葵の顔がめちゃくちゃ近い。
ヤツの吐く息が俺の顔にかかる。
「あたしはお前につよく惹かれている。
だがあたしは訓練されているから情に溺れることはない」
「俺はお前のこと、大嫌いだよ」
「あっ......やめろ」
ニセ葵は、床に押し倒された俺に覆いかぶさってキスをしてきた。
ナイフを当てられていて、怖くて抵抗できない。
クチュ、クチュと嫌な音とともに思い切りディープ・キスされた。
くちびるを離すと、ニセ葵は俺の瞳をのぞきこむようにじっと見つめた。
「コントロールは、1142H-A樫谷光一対策に、あたしをワームとして指名した。
あたしたちは、DNAレベルで相性がいいと判断されたからだ。
お前を誘惑し堕落させるのがあたしの仕事だ」
「お前の言っている言葉の意味がほとんど分からないんだが」
「分からなくて良い」
ニセ葵は俺の頬を強く何発か殴りつけた。
「......っ!くそっ。好き勝手しやがって」
俺は殴られた頬を抑えた。
「大人しくするんだ。あたしはお前とやりたい」
そう言うとニセ葵は俺のシャツのボタンをはずし始めた。
「俺は本物の葵ちゃんとしかしない!」
このまま襲われるわけにはいかない。
もうナイフなんかどうでもよかった。
力いっぱい両腕でニセ葵を突き飛ばした。
ニセ葵は、うしろにのけぞってバランスを崩した。
俺はそのすきに素早く立ち上がる。
ニセ葵は、口の片端をあげた嫌な笑い方をしながら言った。
「蛭間透子につたえろ。Bのワームがこの世界に来ていると」
(蛭間透子......蛭間さん?どうしてここで、蛭間さんの名前が出てくるんだよ)
俺はニセ葵の言うことが気になったが、逃げることにした。
急いで床に落としたリュックをひろうと、部室から飛び出した。




