第14話_【般若】般若の正体(1143H-C)
俺は葵の部屋のベッドで横になっていた。
「葵......こっちに来て」
葵のほうに手を伸ばす。
葵は、椅子に座ってウェアラブルデバイスを動かし、何かの記事を集中して読んでいた。
「葵......」
俺の声は聞こえないらしい。
葵は本当にいつも真剣だよなぁ。
なんにでも一生懸命で、ひたむきで。
そんなところもすごく、好きだな。
俺はそっと葵の背後に立つと彼女をうしろからギュッと抱きしめた。
「ウワッ」
葵がびっくりして声を上げる。
「光一。急に止めてよ。びっくりする」
「何度も呼んだよ、葵のこと」
彼女の白いうなじにキスをした。
「っ......もう......ニュース、読んでたのに」
葵は体をねじって、俺のほうを見上げる。
怒ったような口調だけど、目が笑ってる。
「そういえば、光一、こないだ1142H-Aの自分に会ってきたってホント?」
「うん......。会ってきた。もちろん、自分の顔と声は隠したよ。
平行世界の自分自身に直接会うのは法で禁じられてるし命取りだからね」
「顔を隠したって、どうやって?」
「般若のお面を被った。それに声も機械で変えた」
葵は、クスクスと笑った。
「なんで笑うんだよ」
「なんだか子どものいたずらみたいでおかしい」
「1142H-Aにいる俺は親父に捨てられ、家族にも見捨てられ、葵に出会うことも出来ずに大学の学費が払えなくなって、路頭に迷う運命だった。
そのあとのヤツの運命は悲惨そのもの。
貧困ビジネスの食い物にされて、薬物中毒にまでなるんだ。
どの並行世界の俺と比べても、ナンバーワンと言えるくらい悲惨な人生だ」
「怖いね。1142H-Aは科学の発展が遅れているから、ベストパートナー制度もない」
「そうだよ。俺と葵はDNAレベルで相性が良いと政府に判断されたカップルだ。
俺は葵と出会ってすぐにわかった」
「あたしは最初ピンとこなかったけど。
光一は見た目はカッコいいけど、頭が悪かったし......」
「ひどいなぁ。俺はひと目見たときから葵に夢中になったのに」
葵を強く抱きしめる。
彼女も俺の首に腕を巻き付けた。
「1142H-Aの光一は幸せになれるのかな」
「どうだろう。チャンスは与えた。だけどあの世界は他の並行世界からも狙われているからな。ゴタゴタが多い。どの世界の俺にも幸せになって欲しいって思うの、おかしいかな」
「いいんじゃない。光一は特殊な能力を持ってるから政府も大目に見てくれてるし。
でも無茶はしないで。光一になにかあったら......あたし......」
「だいじょうぶだよ」
彼女の唇にそっとキスした。
「ねぇ!この記事読んで。豆治郎って呼ばれるワームが最近、暗躍してるみたい。あちこちの並行世界で主要人物の運命を狂わせてるって」
葵が、ノードを開いて、記事を俺に見せた。
「豆治郎......変な名前だ。聞いたこと無いな」




